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[コメント] 暖流(1939/日)

佐分利信がモテモテすぎてうらやましくなる。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







別に中心的な内容ではないが、斜陽のブルジョワ家族がその転落の中、誇りをもって生きる姿が描かれていて私好み。

基本的にストーリーは瑣末な経過を大胆に省いて進行するためテンポが良い。

演技面では、水戸光子の狂気すら感じさせる愛にドキッとさせられる。具体的には、日疋を思い枕を抱く際の表情や啓子が日疋への好意を告白した際に突然アップで入ってくるムッとした表情、ドアの影に隠れたり(吉村作品には狂気の愛を表現する方法として時々使われている)、日疋の家に何度も訪問したりする姿はもはや冒頭に描かれていたような普通の女ではない。特に夜のベンチで見せる水戸光子の演技はなんら性的表現を伴わないにも関わらず、強いエロスを感じさせる。熱演。又、高峰三枝子についていえば、そっけない対応をしておきながらうれしそうにピアノを弾く姿がかわいい。ラストの堰を切ったように感情的になるもそれをなお隠そうと必死に抵抗する演技も良い。

映像面では、劇中でも重要な意味を持つ喫茶店での啓子とぎんのシーンでカップや服装の色で視覚的にも二人を対比させ、会話の流れに応じてその立ち位置やカップを移動させるなど、高い映像センスを見ることが出来る。又、前述の砂浜で洗顔するラストは映像的にも好みなのだが、せっかく高峰三枝子が演技頑張ってるんだから、もうちょっと引っ張ってくれてもよかったような気がする。さらに、徳大寺伸が結婚を上手く交わされた際に枝を振り回す演出が上手い。何も言わずとも映像から、その苛立ちと男の幼稚さが十分に表現できている。

音楽面では、繰り返し用いられるヴィヴァルディの美しい旋律が啓子と彼女を取り巻く環境の気高さを醸し出しており、その魅力と共に近寄りがたさを感じさせ、日疋の「住む世界が違うんだ」という台詞に説得力を与えている。吉村監督の「ブルジョワ=ピアノ」という図式がこの作品にも見られる。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)死ぬまでシネマ[*]

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