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[コメント] かもめ食堂(2005/日)

ぷかぷかと、プールに浮かんで白昼夢。
林田乃丞

 冒頭からしばらくの間、イライラして仕方がなかった。主人公の生活背景がまったく見えず、それがそのまま物語のバックボーンの欠如に感じられていたのだ。異国の地でまったく客が入らぬ食堂をのうのうと続けている異様な中年女の生活が不気味にさえ見えた。

 画面の色が非常に美しく、凝りに凝った美術や北欧家具が並べられた食堂はいかにも浮世離れしており、店主の商売っ気のなさも何やらガツガツしない女の美学のように感じられた。フィンランドというロケーションも含め、すべては「私の好きなものだけ集めたの!」という作家の自己満足と甘えに満ちた作品であると、危うく断じてしまいそうだった。

 だが、その思いは簡単に氷解した。この作品のロケはフィンランドでなければならなかった。そうだ、ここはエアギターの国だ。山間にはムーミンの谷があって、陽は沈まず、24時間いつだって白昼夢を見られる国だったのだ。

かもめ食堂』は女の自己満足と甘えに満ちた作品ではなく、女の自己満足と甘えを緻密かつ繊細に描き、現代の理想郷を浮き彫りにした空想物語だった。

「いらっしゃい。ギターが弾けなくてもロックスターになれる国へ、ようこそ」

 女じゃなくても、行ってみたくなるに決まってるじゃないの。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)TOMIMORI[*]

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