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[コメント] コクリコ坂から(2011/日)

ゲド』、『ポニョ』、『アリエッティ』という死屍累々を積み上げて、ようやくジブリの情緒を取り戻した感がある。ストーリーが持つべき深さに対して上映時間がかなり短いため表層を掬い取って終わっているが、皮肉でなく、「次」を期待できる作品ではある。
Master

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ストーリーの幹は3本ある。「カルチェラタン」なる老朽化した文科系クラブのクラブハウスにまつわる話、海(長澤まさみ)と俊(岡田准一)の恋愛模様、そして海の父親をメインとする二人の親の話。これらがひとまずは絡み合ってストーリーを構成してはいるのだが、その絡み具合が甘いと言うか雑と言うか、相互作用という観点からすると脆弱といわざるを得ない。

その原因は前提条件の説明を極端に簡素化もしくは無視しているためではないかと思う。学生運動華やかなりし頃という時代背景、カルチェラタンが生徒達にとってなぜ重要なのかという行動原理の説明、そして、海と俊がなぜ惹かれあうのか、もしくはどういう過程を経て惹かれあったのかという状況提示、そのいずれもが軽く扱われている。そのため、観客は何に対しても感情移入しづらく、とりあえず傍観者としてスクリーンを眺める事になる。

こういった不親切さは結局全編にわたっていて、女子生徒が大挙してカルチェラタンの掃除に来る理由も明確ではないし、理事長(香川照之)がなぜ海に対して極端に好意的に接するのかもわからないままである。女子生徒の件は、一応俊や水沼(風間俊介)目当てであろう事が類推できるようにはなっているが、それでもカルチェラタンの保存に興味を持っていなかった層がなぜそういった行動に出たのかはわからないままである。全体的に、観客に理由付けを任せきっている印象が強い。こういった観点では相変わらずでもあり、残念だった。

ただ、比較的リアルな世界を描いている分、自分の経験が想起されるなどして、世界観をイメージしやすかったのは良かったと思う。その点は、ポジティブに評価できる。あとは、「役者声優」の不自然さが今回は少なかったこともポジティブに取れる。この方向性は今後も保ってもらいたい。

という事で、本作は次作以降の「布石」という意味で、一定の成功を収めていると考える。断じて名作・傑作の類ではないが、落胆せずにすんだだけでも十分な進歩である。

(2011.7.18 tohoシネマズ上大岡)

(評価:★3)

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