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[コメント] GSワンダーランド(2008/日)

現代日本映画という枠内で考えれば概ね満足できる出来のコメディ。けばけばしい女性的メイキャップの栗山千明より男装をした彼女のほうがずっと可愛い、という倒錯的な仕掛けが映画の軸。目新しさはないが。武田真治はいいかげんな男を精密に演じていて感心するし、高岡蒼甫の悪役ぶりも面白い。
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しかし、これではどうにもエピソードが足りない。云い換えれば、観客ではなく作り手が埋めるべきはずの「余白」が多い。武田とタイツメンが決して商売ずくの関係ではなかったこと。同期フレッシュ・フォーが二度にわたってタイツメンの替え玉として活躍すること。それらが取ってつけたようにしか見えない。それより以前に「武田とタイツメン」「フレッシュ・フォーとタイツメン」を焦点化したエピソードが少なくともひとつずつなければならなかったはずだ。また、日劇出演をかけたテレビ収録シーンで栗山は自分が女性であることを告白するが、ここでもそのシーンに至るまでのエピソード不足のため、栗山を中心としたタイツメンの葛藤がじゅうぶんに出てきていない。そもそも日劇を目指して集ったようなものである四人なのだから、その日劇に対する執着ぶりを描いたエピソードもあってよかっただろうし、そんな彼らの間に絆が生まれてきたことを印象づけるような幸せなシーンも欠けている。かろうじて芸能ニュースのシーンが後者に当てはまるとも云えるが、その処理は少しく経済的に過ぎている。そして以上のことが総合されて、終盤の「一回限りの再結成」がうまく物語に収まっていない、という事態を呼んでしまっている。

結末部にもまた余白があるのだが、これは観客が埋めるべき類の余白であって、よいと思う。すなわち、いささか唐突に学生服や学生鞄、文房具といった学生の(=若さの)記号であるはずのものを登場させることによって、逆に石田卓也の青春の終わりを見せるという簡潔かつ苦くねじれた演出だ。映画は照れ隠しのようにフレッシュ・フォーを再登場させるが、しかし石田が迎えるこの結末の苦みには作り手の誠実さを感じる。

 ところで、この映画における笑いどころの多くは俳優による(漫才で云うところの)「ボケ」と「ツッコミ」で成り立っていて、映画の志としてそれはどんなものだろうかと思わないでもないのですが、水嶋ヒロや石田のツッコミの間の取り方はなかなかよくできていて、うすら寒い思いをすることはほとんどありませんでした。現代日本映画としては満足できるコメディ、というのはそういう意味でもあります。

(評価:★3)

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