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[コメント] ラベンダー・ヒル・モブ(1951/英)

よくできた脚本だ。「よくできすぎた」脚本ではない、というのがよい。一般論として云えば、よくできすぎた脚本は撮影段階での演出の自由を狭めてしまう。プロットワークの面白さと演出の面白さが両立したこの映画もまた、スタッフの能力のみならず制作システムが生ましめた良作と云ってよさそうだ。
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と、このように云う所以は、クライム・サスペンスとスラップスティック・コメディを巧みに渡り歩く作劇の要領のよさとともに、『地下鉄のザジ』とヒッチコック的高所感覚を同時に想起させるエッフェル塔駆け下りシーンの演出などがあるからだ。このような馬鹿馬鹿しくユニックなシーンは演出家や脚本家の頭がよいだけでは決して撮れない。

また、当初「気弱な中年男」という類型のキャラクタかと思われたアレック・ギネスがいつの間にか完璧主義の堂々たる犯罪者になっている(元々そうだった?)のが、通り一遍でなく面白い。「チームの絆」もほのめかされるが、それを前面に押し出すなどしてウェットネスを持ち込むことをしない展開・演出は英国らしさか。

ギネスとスタンリー・ハロウェイが渡仏して以降、前述のエッフェル塔シーンあたりから加速度的に面白さが増してくる。白眉はやはりクライマックスのカーチェイス・シーンだろう。即物的なアクションの面白さと知的なパズルの面白さが高次で交錯する。ラストカットも『現金に体を張れ』のようで格好よい。もちろん『現金に体を張れ』ほど端正に完璧なカットではないが、その猥雑さがこの映画にはよく合っている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

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