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[コメント] さらば、愛の言葉よ(2014/仏)

「一」と「二」をめぐる三次元映画(第三章は訪れない)。通常の二重露光における時差を視差に捉え替えたカットは、左右の眼それぞれの視覚は両眼視の単純な二分の一ではないことを明晰に示す。「男女の別離」が物語に選ばれるのは、一組を成す二人が一人と一人に分裂する緊張の基礎的資料だからである。
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 以下、余談でございます。上に述べたカットはやはりこの映画で最も驚くべきカットではありますが、両眼で見た場合のこの画像を得ることは従来の二重露光技術でも可能だったはずで、ジョルジュ・メリエスか、遅くともセルゲイ・エイゼンシュテインの時代に実現されていてもおかしくはなかったでしょう。また、一九五〇年代前半の立体映画全盛期にもこのようなカットの撮影が試みられていなかったとすれば、それは却って卦体なことに思われます。したがってここで「驚くべき」という評価語彙が向けられるべきは、その「新しさ」に対してではなく、「(あってしかるべきにもかかわらず)いまだかつてなかったこと」に対してだと云ってみたいところです。いずれにせよジャン=リュック・ゴダールが映画史上で指折りに頓智の利いた演出家であることは論を俟ちませんが。ところで、件のカットにおいて、たとえばラオール・ウォルシュは右にパンする画面を、アンドレ・ド・トスはフィクス画面を見ることができません。それにもかかわらず、どうして彼らは『限りなき追跡』や『肉の蝋人形』を撮ることができたのでしょうか。

(評価:★3)

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