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[コメント] グレイテスト・ショーマン(2017/米)

物語は「サーカス」の語が喚起する一般的なイメージであるところの巡業をほとんど等閑視し、もっぱら常設劇場を興行の前提としている。いわゆる「サーカス列車」で知られるP・T・バーナムを主人公に戴いているにもかかわらずである(むろんサーカス列車の創始は彼の後半生に属する出来事ではあるが)。
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演出は「移動」の感覚の抑制を企んでいる。“A Million Dreams”をはじめ、ミュージカル・シーンがミュージカルの特質を要領よく活かして時空間の連続性を無視したカットの展開に成功しても、それは「場の転換」「瞬間移動」であって、そこに移動の感覚は希薄である。ヒュー・ジャックマンは「鉄道」事業に携わってひとまずミシェル・ウィリアムズと結婚できる程度に身を立てたらしく、結婚後も「貿易」関係の職に就いていたようだが、これらも移動のイメージを画面化することには結びつかない。女王に謁見するための英国旅行も同様である。

はじめに記したように、そもそもは常設の小屋なしに興行は成立しないとでも云うようなジャックマンの振舞い、云い換えれば、小屋を演し物・見世物の上位に置く姿勢が違和感を誘う。事実、劇場を買収する以前において彼は「フリークス」をリクルートする構想を持っていない(と云っても、この云い分は多分に個人的な思い入れに基づくものかもしらない。私は、クリント・イーストウッドブロンコ・ビリー』や、劇中時間の大部をひとつところで費やすにもかかわらず拭いがたい「漂泊」の感覚が画面に刻み込まれた小津安二郎浮草』に「映画」の理想を見ている観客だからだ)。もちろん、ジャックマンの「定住」志向は、豪邸を購入する挿話からも瞭らかなように、彼の上昇志向のあらわれの一面としてキャラクタ造型に回収されるだろう。しかしレベッカ・ファーガソンの米国巡業(これにしてもその移動ぶりがじゅうぶんに画面化されることはないのだが)が招いた結末も併せて思えば、移動とは、ジャックマンにとって不幸を導く忌むべき運動だったのかもしらない。

さて、当然ながら、上の最後の一文は偽である。全篇にわたって幾たびも繰り返されてきた常設建築と定住を志向する挿話、「反-移動」の演出は、終盤においてそれを反転させ、またその反転ぶりを際立たせるための映画設計だったと云うべきだろう。それすなわち、劇場焼失後、実家に出戻ったウィリアムズを迎えに行くためのジャックマンの「疾走」であり、「天幕」での興行再開である。鮮やかというよりも野暮ったい段取りで、「映画」にあるべき感覚にようやく辿り着いたというに過ぎないが、ジャックマンからザック・エフロンへの「継承」の物語としても唐突に平仄が整って清々しく結末する。

なお、最良のシーンは、洗濯物はためくアパートメント屋上における幻燈のそれである。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ゑぎ[*] けにろん[*] Orpheus

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