[コメント] アウトレイジ(2010/日)
見ながらずっと「あー、サラリーマンで良かった」と、つくづく思わされた。はかないなんて思わせるヒマもないくらいはかない命達が画面の中で散っていく。そこには一片の憐憫もためらいもなく、ただひたすら、それが唯一のつとめであるかのように死んでいく。サラリーマンなら理不尽な出来事も多々あるけれど、まあ、日本人なら周囲の人たちはそこそこ暖かい。しかし、この映画の「職場」は、鬱病になんかなってるヒマがないほど冷酷な「職場」だ。
登場人物全員が悪人だ。程度の差や、悪の種類もいろいろあれど、全員悪人だ。ただ、北野・椎名・杉本だけは少し素敵な色に描かれていたとは私の考え過ぎか?
『監督ばんざい』『アキレスと亀』で、なにか表現の迷いをストレートに映像に写してしまっていた北野監督だが、今作はなにごとか吹っ切れたかのような突き抜けた表現になっている。 特に暴力表現は『その男凶暴に付き』で見せた「ことさら描いて見せた」的なものとは全く違ったテイストの、『パルプ・フィクション』でも達し得なかったようなドライな表現がなされている。もう、笑いを誘う余地がないほど直接的で乾いた表現がなされている。
いろいろと良い点がいっぱいあるのだが、今回はキャスティングの妙と、それに応えた俳優陣の冴え渡る演技が特に飛び出ていると思う。もちろん構図やカメラワークもすばらしい。それだけに世間の評価が予想外に低いのが気になるが、やはりここまで暴力表現が強いと、観客にとってのハードルも高くなるんだろう。
鈴木慶一の音楽も、かつて聴いた彼の音楽の中ではピカイチと言えるできばえだ。
人様にはあまりお勧めできるような品物ではないのかも知れないが、タケちゃんの映画の新たな出発とも言える本作に私はとても満足だ。
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