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[コメント] 7月4日に生まれて(1989/米)

障害者となることで別の障害を乗り越える「障害」の映画
山ちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







  これは「障害」の映画である。すなわち障害者となることで別の障害を乗り越える映画である。ここでいう別の障害とは、盲目と言う障害である。つまり、これまで見えなかったアメリカの本質を障害者となることで見えるようになったということだ。

 ロニー(トム・クルーズ)は、純粋な愛国者だった。純粋であるが故にアメリカの表層的な部分しか見えず、その深層には盲目的だった。その深層とは、アメリカは、リッチな白人の国であって、そこでは白人以外の人種は、人間としての尊厳が失われているということだ。

 ロニーは、ベトナムで下半身不随となる。下半身不随となり生殖機能を失う。実質去勢されたのだ。そして彼は、障害者になった後、様々な人種に触れ合う。そして様々な人種と触れ合い、彼自身が尊厳を傷つけられている現実を経験する。

 ベトナムでは黒人医師、看護婦たちと触れる。そこで彼は、例えば小便を垂れ流している負傷兵がいても放置されているといった、人間として扱われていない実態を目にする。アメリカで立場が逆転した生活を強いられるのである。さらにロニーは、メキシコに赴く。たどり着いたところはかつて愛国心をもって国のために戦ったリッチな白人達が宿る売春リゾートである。そこで彼は、純粋に一人の売春婦に恋をする。そして彼女にプレゼントを渡そうとするとき、彼は、その売春婦が自分に対して金目当てのお客に過ぎない、という現実を知る。そして、彼は、障害者の一人、チャーリー(ウィレム・デフォー)が、不能の姿を嘲笑ったとして売春婦に暴行を加えるシーンを目撃する。そこでロニーは、何を知り、何を感じただろうか。男としての尊厳が失われている現実と、白人であることを誇示しようとする醜態さの無用性ではないだろうか。

 彼は帰国後、反戦運動にエネルギーを注ぐ。このような辛い現実を知り、彼はかつて内包していた愛国心の為に見えなかったものが見えてきたのであろう。それは、彼がみずから人間としての尊厳を踏みにじられたことにより、人間としての尊厳を踏みにじってきたアメリカという国を知るのである。そして彼は、リッチな白人が起こした戦争であるベトナム戦争に対し反戦活動を展開していく。その姿は、アメリカの本質に盲目的であったという障害を克服したことを示唆しているように思う。

 これは辛い映画である。しかし、絶望的な映画かと言われるとそうでもないだろう。なんらかの障害を患うことにより、今までもっていた別の障害を克服することができるのだ。それは肉体に限らない。そのように本作は教えてくれる。生産的な映画である。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Myrath Orpheus ダリア[*]

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