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[コメント] 受取人不明(2001/韓国)

一歩踏み込んだ“痛み”の伝達に成功している。
かねぼう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







米兵と不可抗力的に恋愛関係になってしまった女、その女を愛する男、米兵と韓国人女性の間にハーフとして生まれた男。この三人の運命を描くことで映画は進行していき、人物設定自体はその意図するところが非常にわかりやすくなっているものの、そこはやはりキム・ギドクである。過激な描写で観客の心をかき乱し、見終わった後も、私たちの心は決して整理された状態にはならない。

3人の悲劇的運命を描くことで、米軍が、しいては朝鮮戦争が韓国にもたらした悲劇を徐々に浮き彫りにしていく構成であるが、三人の精神的苦痛を肉体的苦痛に結び付けて表現するところが、この作品が過激な印象を与える所以であろうし、またそこがキム・ギドクの凄いところである。

視力を回復した女は再び自ら視界を断ち、女を愛した男は身柄を拘束され、ハーフとして生まれた男はバイクの事故で絶命する。この手の映画は多くの場合、慎ましやかな表現を用いて登場人物の心の傷を観客にじわじわと伝えていくような構成をとりがちだが、キム・ギドクはそれを全く踏襲せず、彼らの“痛み”を肉体的な苦痛と結びつけることで、容赦なく観客にぶつけていく。そして、この発想こそがキム・ギドクの特徴であり、また彼の映画が、他のリアリズムにのっとった映画とはまた異なった、強烈なメッセージ性を有する理由だろう。

実際、映画で描かれる登場人物の心の傷というものは、同情しそれに涙することはあっても、自分がその境遇を経験してない以上、どこか他人行儀な感じは否めないものである。この映画は、肉体感覚という普遍的なファクターを利用し、さらに一歩踏み込んだ感情の伝達に成功している。キム・ギドクによる登場人物の“痛み”の表現は、他に類を見ないほど独特のものであり、強引なところも多々あるのだが、観客に何か“痛い”という共感を呼び起こすには最良の方法であるように思われる。

そしてあのラストの“手紙”である。その内容の能天気さと連鎖するように、それまでの3人の話が、その一通で有機的に結びついていく一瞬はため息が漏れる思いだ。手紙の言葉はむなしく響き、韓国がその内部に抱え込む傷を改めて実感させる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)sawa:38[*] ぽんしゅう[*]

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