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[コメント] るろうに剣心(2012/日)

不殺というテーマ一つに支えられた映画
neo_logic

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







悪役が「なんだこの刀は?」と言うだけでこれがどういう話なのかがわかるので、非常に映画に向いている原作だったんだなと驚きました。全編を通じてその主張が貫かれるので、多々いる悪役の中でも最後に選ばれた奴は適切でしたね。

この手の原作付き映画は一定の観客が見込めることから新人の脚本や演出に経験を積ませるのに利用され、駄作になることが多いものです。ですが本作もその傾向は見られるものの、白々しい冗談や不要なラブシーンも極力抑えめで、剣心という人物を映し出すことに注力していて好感が持てました。全体的には成功と言えるんじゃないでしょうか。

まあ映画そのものはそのくらいで。殺陣です殺陣。

まず佐藤健扮する剣心ですが、この人運動神経がいいですね〜。

剣心のキャラクター的に動かないとあまり映えないだろうなと思っていたのですが、よく走るし飛ぶし、かなり原作に迫る動きだったんじゃないでしょうか。ワイヤーアクションもそれなりに自然でした。ジャッキーやレイバークに比べれば「すごい!」というほどではないですが、合格点でしょう。あと、この人ダンスの経験がありますね。この手の役者といえば空手かカンフー、テコンドーが定番というイメージがありますが、私はこと殺陣の素地として必要なのはむしろダンスだと思います。ダンスができる人はアクションシーンには強い。ワイドスタンスでバランスが取れるからです。

それとこの役、演技そのものはある程度大根でも許されますよ。それでも充分剣心らしいんだもん。監督はそこを理解して配役したんだから、成功でしょう。

佐藤健の剣術は、うーん、及第点でしょう。

いわゆる殺陣剣術です。神伝流は全く知らないようですし、それ以外の居合も全くできないようですね。納刀だけは習ったようですが、帯刀がおかしいです。位置が左すぎる。まあこれは役者と言うより監督の問題ですけど。

「どろろ」の妻夫木聡扮する百鬼丸よりは技量は上ですね。 ただ、剣の殺陣は役者よりもカメラワークで失敗してますね。それともう少し離れて打ち合うように指導するべきでしたかもですね。近距離の打ち合いが多くて役者の魅力を減らしています。

剣術の殺陣は正眼に構えて切っ先が面に触れる三寸手前が一番映えると言われています。この映画ではそれよりもうちょっと近く見える。残心が多すぎるのも気になりました。おそらく長いカットのアクションができないのでしょう。こういう場合はフィルム側でごまかすべきなのですが、残心を多くして解決してます。これは予算はかからないんですが良い方法ではないと思います。佐藤健には残心を見せて観客を圧倒するほどの存在感はないです。浅野忠信とか勝新太郎とかでもこうした残心はなかなか映せないものです。たいていは動いてる方がかっこいいので。

敵役と佐之助の格闘技はだいたいひどいですね。

役者がひどいと言うよりコンテがひどい。明らかに手を抜きすぎです。殴り合ってりゃ面白いってのは30年前の発想です。もうちょっと引きで撮って緩急をつけろと思いました。須藤元気と青木崇高もがんばってはいますが同情票です。上手じゃない。

まあ、とはいえガトリングガンは面白かったです。やっぱりガトリングは高笑いと札束がセットですね。ジョン・ウェインの時代からの鉄則です。 「支払日だ取りに来い、ハッハー!」

あとなんでこの映画こんなに突きが多いの?

殺陣と言えば昔からヤマガタヤマガタチドリチドリと言われるくらいで、「振る」のが前提です。振らないと日本刀は面白くない。スターウォーズを見よ(いやあれは日本刀ではないですが)。

ともかく映画のチャンバラで突きというのはリスクが高いのですよ。カメラの非遠近感と残像の少なさが災いして、迫力が全くでないのです。ところがラストバトルでやたら「突き」が多い。理由が全く理解できません。なんで剣心と敵役に突きを出させたのか。

事実、斉藤一の突きは「例の構え」では、エフェクト無しで迫力を出すため別の演出を使ってにすごみを加えています。そっちでそういう工夫をして、一応の成功をしているのに、なぜか他では突きまくっている。おそらく斉藤の牙突を演出家が、それ以外のアクションを殺陣師がやっているのでしょう。

最終戦の殺陣は個人的には残念な出来でした。ここまでがんばれるポテンシャルがあれば、もっともっと良いものが作れたと思いますね。腕が折れたところも口で言ってるあたり、ごまかしを感じます。アクションというのは動きではないのです。動きを通じてたたきつける迫力の事なのです。

まあそんなわけで、アクション映画としては50点を超えていない印象です。ただ原作の再現度や役者の努力、テーマの押し出しの強さなどから考えれば、70点は行く映画だと思います。日本映画がそこそこ好きな人になら、充分お勧めできます。

(評価:★4)

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