[コメント] ベイビー・ドライバー(2017/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
ダンスはアクションだと聞くことがある。転じて、優れたアクションはダンス的なものであり、それは即ちリズム、場に即した適切なスピードだということができないだろうか。
私はアマチュアオーケストラの下手っぴ奏者で、映画にかけてはさらに輪をかけて素人だけど、敢えて言わせてもらえば、優れた編集、演出家の感性は、きっと優れた音楽家の感性に近い。研ぎ澄まされた音楽は、細かい一音一音に至るまで、少しでも楽譜に指定された音価・表現を守らないと音楽が壊れてしまう。音価・表現を極めるという概念と、どのようなカッティングやアクションがどのような場面に相応しいかを捉え、切り取る感性はきっと同じものだ。本作は、劇伴の音価と効果音、編集のリズム、アクション、情動の全てが一致していて、快感指数がめっちゃ高い。PV的な作りならそりゃ気持ちいいよ、というだけでは割り切れない、演出家の意思を感じる。このとどめのキモが音価処理の鬼と言えるクイーンだから、これはアガる。劇場で観ていたら「おおっ」と声を上げて身を乗り出したかもしれない。
確かに筋運びに甘さは感じるのだが、あくまでファンタジーという解釈で許せるし、優れたアクションはダンス的なものであり、それは即ちリズム、スピードだということを確認できた点で、私の中では重要な作品となった。
ちなみに筋運びについても実は工夫が効いていて、あれだけヘイトを集めたフォックスはあっさり退場させておいて、一時は「イヤホンを分け合った仲」であるジョン・ハムをラスボスに据える筋がなかなかイケている。恋人のために暴走するという点でも共通項が生まれる主人公と彼の、ブライトン・ロックに乗せた最後のチェイスは、これも似たもの同士のダンスのように映る(フォックスとのダンス的な絡みはない)。
「無垢(ベイビー)故の暴走」にカーチェイスを引っ掛ける短絡性はこの際とても好ましい。
なお、wikiによれば、この作品で編集のジョナサン・エイモス、ポール・マクリスは英国アカデミー賞の編集賞を受賞しているようだ(受賞作品は割と納得のラインナップ)。ポール・マクリスと共にエドガー・ライト作品の常連とのこと。
ちなみに私の乏しい映画経験の中で最高の編集者は間違いなくサリー・メンケ。
余談だが、イヤホンを分け合える仲というのは、脈ありと見ていい。もっと先に進んどきゃよかったと寂しく振り返る件がちらほら、、、
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。