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[コメント] ポルノの女王 にっぽんSEX旅行(1973/日)

ひとりで缶爆弾つくる荒木一郎の徒党組めないナルシストの究極の分派闘争は、言葉の通じない外国人の軟禁強姦からの一方的な純愛に至る。これが連帯なき孤立のなれの果てというシニカルに時代の空気が詰まっている。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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荒木は東寺の傍に住んでいて(高速インターが近い)ボログルマで東京へナンパに行っている。銀座で黒眼鏡割ってずっと外しているから周りは輪郭しか見えていないのだろう。何しに羽田空港にいたのか判らないが、うろたえ者なのだろう。スゥエーデン人クリスチナ・リンドバーグとの全く会話が成立しない関係は、彼の孤立の延長と極端化だと感じられる(外国人相手にした実践編としても単純に面白い)。

軟禁した後、親しみを感じた荒木が外鍵をかけずに外出してみる。試みにというニュアンスがいい。花束持って帰宅するとリンドバーグは失踪している。余りにも当然だが、荒木は衝撃を受ける。むしろ収束で、出てゆけと云っても行かなかった彼女はあり得ないロマンチズムの感傷だった。インポの象徴のような缶爆弾不発のラストも徹底している。

しかしまあ、強姦から愛という昔のクリシェは決定的に時代遅れで見苦しい。腹を殴っているのはリアルなもので彼のアクマ性を際立たせているし、「わいはどうせ強姦魔や」と後半嘆かせてもいるが、相手がそれを許すというのは違和感しかない。ここはロマンチズムが過ぎる。

ただし、リンドバーグ逃走中、アングラ酒場で右翼っぽいパフォーマンス繰り広げる粟津號は「今の日本にあるのは強姦の自由ぐらいや」と叫んで襲いかかっており、強姦とは日本男子の本懐、彼等と荒木は呼応しているのだというシニックは判る。

ありがちな近所のオバさん日高ゆりえがケッサクで荒木を覗きまくるデフォルメショットが素晴らしい。リンドバーグが夕暮れの五重塔を見上げてキレイと呟くショットは唯一とても美しい。本作は後年の、竹中直人らの軟禁ものの先駆なんだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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