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[コメント] 太陽のない街(1954/日)

悪人の活躍が愉しいヤマサツ映画、本作の魅力は争議側がほとんど悪人のノリで破天荒を競う様だ。原泉北林谷栄小田切みき日高澄子宮口精二殿山泰司織田政雄多々良純高原駿雄等々、何と魅力溢れる善人たちだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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戦前の組合争議の話。争議団は印刷会社のスト中、相手は花沢徳衛みたいなヤクザ雇い、パイ投げならぬカレーライス投げ。ねじり鉢巻きの刑事が路上で尋問し、桂通子の葬式も見張っている。婦人部の内輪もめで争議側のやたら元気な小田切みき。運動会のパン喰い競争のモブシーンが一斉検挙に暗転する。

争議団の大会にも警察がいて、発言内容で「検束」と指示し、発言者は庭から逃げたりしている。ニュースが流され「若槻内閣総辞職、田中大将に大命」の広報。「大なた騒動」なる人形芝居で「田中反動」と客席から声が飛ぶ。田中義一内閣の評判の悪さはここでも記録されている。

支援の食料到着。北林谷栄が怒鳴る。「鳩ぽっぽじゃあるめえし、一粒ずつ喰っているんじゃねえんだ」「俺たちも米無しデーをやっているだ」。長期化する争議にご婦人連中は門番を揶揄い、路上で踊り出す。北林曰く「お天道様だってそっぽ向いてらあ」。

暗躍する殿山泰司、交渉相手は警察署長だったり「雑誌報告」を掲げる講談社社長の東野英治郎だったり。男爵と社長の協議、印刷業者だけが手を引く、「赤色攻撃だ」、業界の組合幹部の一斉首切り

信欣三「敵側は戦線を整えて乗り出してきている」「決戦あるのみだ」「どうやって戦線を広げるか、それだけの力があるか」本作、組合側で堅苦しいのは彼ぐらいだ。まあしかし、理屈云う人がいないと話が判らないから仕方ない。

路上で酔っ払う宮口精二、シュウマイ喰ってから玉ノ井に売られる娘の岸旗江。争議切り崩しで、別途雇われる織田政雄ほかの職工たち。「俺は半年仕事がねえんだ」。説得する組合の二本柳寛。「俺たちは仲間だろう」「関係ないよ」「頼む、勝たせてくれ」。闇夜に乗じて職工入れていると噂、とっ捕まえて乱闘。

工場が火事になり、犯人とハメられる二本松たち。先代の社長のために泣く心情保守の典型の爺さん薄田研二は首を吊る。「会社の空き家が五、六軒焼けただけだってさ」と後で判明するイロニーは何とも云えない後味が残る。

ラストは争議団の臨時大会の分裂、旗の奪い合いから行進。多々良純高原駿雄といった後年悪役で名前をはせる面々が組合側の若い衆で活躍する。ヤマサツ映画は悪役がいいというより、彼等がいいのだ。原泉さんの活躍も見逃せない。

予算かけ過ぎて赤字になったと云われる職工長屋のセットが素晴らしい。場所は駒沢とのこと。橋の袂で破天荒な奥さん連中が屯する光景にユーモラスな凄みがある。ギャラが払えず、エキストラのストライキがあった(!)という話が残っている由。製作に嵯峨善兵の名前がある。寅さんの朝日印刷は本作(原作)へのオマージュなのかも知れない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)水那岐[*]

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