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[コメント] 素晴らしき哉、人生!(1946/米)

毒薬と老嬢』のブラックユーモアが継続されているのが嬉しい。伯父が失敗するたびに出てきてカウンターを闊歩するカラスが好きだ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







〇陽気で饒舌で短気なジェームズ・スチュワート。この嫌味のない名優だから嫌味がないが、これを除けば酒場で見かける典型的なアメリカ人という気がする。こういう名画で補強されて、アメリカ人は更に陽気で饒舌で短気になっているのではないのだろうか。恋人を取られたのに陽気に付き合うサム君の底抜けなキャラもまたアメリカンで、こちらは実にいい奴。人間かくありたい。

ドナ・リードは絶品。ジェームズ・スチュワートの心情を理解することまるで超能力者のようで、二人の表情の一対になった感が的確に決まり続ける。前半からすでにファンタジーが始まっている。バスローブの件はいいギャグ、もっとしつこく撮ってもらった方が有難かった。

〇8000ドル紛失(盗難)の件はいい。私の職場でもよくあったなあ、重要書類の紛失。大勢で雪道やらを探しまくる件の地味な切迫感が記憶に残る。

〇自殺しかけた者が、自分のいない町の惨状を目の当たりにして、元の世界に還りたいと願う。本作の肝だが、ここが私にはよく判らない。なおさら自殺したいと思うのではないのだろうか。私なら残念ながら死んでいる。

〇金の介在した人間関係、コミュニティの賛歌な訳で、義理と人情の日本映画なら敬遠する処だ。ハリウッドは大抵、金銭に中庸以上の価値をつける。本作のラスト、テーブルのうえに山と積まれる札や小銭は、神の報酬の象徴なのだろう。彼は町一番の金持ちになったと高らかに謳われ、現世利益が謳歌されている。

〇我々が感動するのはそこではなく、ラストにこれまでの登場人物が全員集合(カンパに集まる)する『8 1/2』パターン(ただし悪役は出てこない)のお蔭だと思う。この手法はハマると本当にいいものになる。倒産騒ぎのときに難癖つけていた親爺が寄付している姿が素敵だ。各々の人生が滲み出ている(監査人までも寄付しているのが可笑しい)。このラストで突然に、ジェームズ一家は主人公の役を譲っている。主人公は町の善人全員になっている。名画たる所以と思う。

〇アメリカの住宅ローンと云えばサブプライム・ローン。ポッターに乗っ取られた末の惨事と思うと他人事ではない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)モノリス砥石[*] 緑雨[*]

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