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[コメント] 海賊とよばれた男(2016/日)

小説からして史実とは相当違うらしく、それをあたかも史実のような話法で綴られると、映画はそれ相応に退屈になる。綴られるのは作者の非現実的な願望に過ぎないように見えてきてシラケるのだ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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ネットで見ただけだが、モデルの出光佐三店主は貴族院議員で出光興産の社史はこんな娯楽要素はないらしい。そんなんでいいのだろうか。歴史人物を使って勝手な装飾する小説は山田風太郎ほか類例は多いが、それを企業人に応用したということなんだろうか。

既得権益を避けて新規参入、石油を海上販売した履歴以降、各方面から恨まれるのは当然とも思われる。「あんたの処には意地でも石油は回さんよ」と語る石油配給統制会社の國村隼が振ってきた旧海軍のタンクの底の汲み上げというホマチ仕事。このときのCGで描いた旧海軍施設は面白い。タンクの底に命綱で降りている。人足が逃げて社員が降りる。昔の市役所の清掃事務所の所長は、ごみ焼却炉のなかに入って直接メンテしたと聞かされたのを思い出した。社長が俺もやると云って部下は止め、部下は戦場よりマシと語る泣かせ芝居だが、岡田准一の社長はここではよく無事に帰ったというのだから結構である。しかしGHQがこれ見て「美しいものを見た」とこの会社に肩入れするのは不公平だしバカバカしい。海外から褒められたがるいかにも保守層らしい描写である。

満鉄に売込んで外油メジャーと競争。満鉄も国産を後回しにしたのは勉強になったがここもフィクションかも知れず。そして戦後、外国資本から日本の石油を護ったという話になる。タンカー作ってメジャーが本気で潰しにきて、という後半の物語は盛り上がらない。現にモデル会社があるのだから潰れる訳はないからである。フィクションで倒産させたら天晴だがそこまでするはずもない。

そして本性を現すかのように戦争リベンジ噺。イランの石油取引のため、大英帝國の海軍が展開しているペルシャ湾にタンカーを突撃。堤真一の船長は特攻隊よろしく命じられるがまま気持ちよく出港。出港直後に社長曰くあの船が帰ってこなければ「俺も生きていようとは思わん」。出港してから戦場に向かうと告げる船長に、船員は戦争の死にぞこないりばかりだ怖いものなんかありゃせん。みたいな一連の感動の煽り方が気味悪い。イランの人々に希望を、なんてとってつけたような方便に至っては貧し過ぎる。だいたい、こういう話には政治家は絡まないのだろうか。その辺り略されているのもリアリティを欠いた。

細かいことだが、冒頭の爆弾や廃墟の窓抜けるキャメラのCGは戦争を茶化しているようで好きになれない。SFなら結構だが、これは事実なのだから軽薄に語ってほしくないと思う。社内で電話がジャンジャン鳴っていたのに社長が喋り出すと電話が止む件は下手糞な演出。あと、元海軍大佐ピエール瀧がGHQのラジオ修理依頼の件は、不良の真空管を交換したらラジオが鳴るようになるなんて当たり前ではないだろうか。この映画スタッフ、真空管ラジオなどさわったことがないのだろう。この世代には発見なのだろうかと逆に驚きだった。リアルなのはやたら気前のいい出資者の近藤正臣。「店員は家族や」が主題の割に部下の噺ばかりで、綾瀬はるかほか描写の行き届かない人物が多いのも印象を薄めた。

(評価:★1)

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