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[コメント] ビジランテ(2017/日)

ただキャメラの前に出てきた人物をその場のパッションで撮りきろうとする実録話法で語られる田舎町の構造
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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フォークナーか中上建次かという、田舎町における親と子供三人の確執劇として観ると中途半端で食い足りない。菅田俊の親父からしてどういう人物なのか説明しようともしていないし、長男の大森南朋がなぜあの土地は売りたくないのか(鉄屑拾って親父が買ったんだという一応の科白はあるけど)その信念に興味が湧かない。彼が隣接地に住む在日中国人に肩入れしている、ということなら物語は全体に連環を始めたはずだが、なぜかそうしない(説明はないが、三兄弟は本当は中国人だったと匂わせてはいるだろう)。

しかし、そうしない映画なのだ、と思えば別の興味が湧いた。本作は各人の事情や心情など説明する気がないのだ。つまり深作実録映画の話法なのだろう。個々人の背景の深追いはせず集団として捉え、ただキャメラの前に出てきた人物をその場のパッションで撮りきろうとする。それが主役だろうと端役(川谷拓三のような)だろうと差別しない。

同様に本作も、主役の三兄弟と、デリベル嬢、在日中国人、市議会議員、自警団(ビジランテ)たちとの質的差異を求めていない。典型的なのが間宮夕貴だろう。大森の暴力に逃げ出すがまた戻ってくる頭の弱そうな美人。この人物についてくだくだ説明したってしょうがないじゃん、と監督は主張しているように思われる。政界の実力者もいればアーパー女もいる、それが田舎町の構造というものだ、三兄弟もまたこれと同じ構造の一部だと。だから具体的な像を結ばず殺される大森の中途半端さも、その中途半端さにおいてリアルと観るべきなのだろう。

そう思って観れば随分面白かった。河原でボコボコ殴り合う兄弟は、デリベル嬢の云いたいこと云えない送別会と同じように禍々しくも寂し気だ。撮影は秀逸で、あれは初冬なのか、ワイドで捉えられた田舎町の侘しい光景の数々がとてもリアル。政界パーティとヤクザ抗争の交錯するクライマックスは山本薩夫も想起され、やりたかったのはむしろ後期山本節という気もする。

実録ではないから、地方政界の現状と課題がどんなものか本作では窺えないが、構造は半世紀前と大して変わっていないだろう。京都市が在日韓国人集落潰したのは最近のことで、本作はあれを意識しているように見えた(ただヤクザとの関係はもうないとは思うけど。本作、細部のリアリティはいまひとつ。私の知る限り会派室に議員の妻子が来るのはあり得ないし、公正証書の原本は公証役場保管だからあんな具合に廃棄されることはなかろうに)。あと、次男の鈴木浩介が河野太郎現外相とそっくりなのは意図的なのだろうか。どちらも二世議員、そうだとしたらますます山本節である。

(評価:★4)

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