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[コメント] 狂った果実(1981/日)

京一会館で観たなあと思い出が蘇った。アーケードの入口、スーパーの二階、脚のお悪い店長ともぎりの小母さん。スーパー改修と一緒になくなっちゃった。黒沢清特集では満員だったのに。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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この映画館、本作のぼったくりバーと私のなかでは一緒になっている。場末の個人商店なんて極上の贅沢だったのだ。今にして思えば。

私の経験でも、若い頃、世の中で暴力バーほど恐ろしい場所は想像できなかったものだ。便所の窓から樋伝って逃げたぜという同僚の体験談を恐怖とともに聞いたものだった。本作は歌舞伎町の暴力バーが舞台。ピンク一色の店内。店長はビール瓶喰らう元ボクサーの益富信孝。麻雀に永島暎子の出産の貯金巻き上げて出かけているが、ヤクザとの付き合いがあるのかは描写されていない。半端ものなんだろう。そしてこの職場は本間優二にだけは優しいのだ。

対するはどこの馬の骨とも知れんブルジョアの原宿三丁目のヘラヘラよく笑うご子息たち。その頂点には本間のオナニー見て立原道造を引用する岡田英次の気障がある。そして勝負は、原宿が完勝してしまうのだ。しかも暴力で。益富は殴られてノビてしまう。これには驚愕があった。暴力バーもブルジョアも元は同じ穴の貉に違いあるまい、というのが任侠映画の認識だろう。そしてドラマでは、暴力では少なくとも社会的に弱いほうが勝つものだ、それが映画だとなんとなく思っていた学生の私は、本作のリアリズムにしたたか打ちのめされたのだった。

永島暎子はこのとき最強に儚くて童女のような笑顔が哀しい。田中絹代を想起すべきだろう。益富に「あんた学あんのね」と無邪気に褒める科白など究極感に溢れている。これに相対する冷感症のように冷淡な蜷川有紀という配役が素晴らしい。蜷川は原宿と歌舞伎町のレフェリーの位置にいて、結局何もできず原宿につくだろう。そういう時代だった。

女囚さそり』シリーズ、『高校大パニック』、本作に『逆噴射家族』と、神波史男のフィルモグラフィーは素晴らしいものがあり、あとは演出家に恵まれるか恵まれないか、本作は最良の化学反応があった。アリスは余計だが許される。刺されながらまるで優作のように立ち上がる本間の千鳥足が忘れ難い。再見。

参加できなかったんだが、話に聞いたところでは京一会館の最終上映は『時をかける少女』。店長のお別れの挨拶に続いて上映され、みんな原田知世で泣いたらしい。1988年のお話。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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