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[コメント] 示談屋(1963/日)

かつて盛んだった示談屋商売の詳述は興味深く、小沢栄太郎もすごいが下元勉がまさかの怪演。そして今もある運送会社の事故係はさらに切実。なんという人生だろう川地民夫
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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示談屋は弁護士資格なしで法律業務を行う違法な商売(弁護士法72条違反)。昔は保険会社が示談交渉をしなかったから、のさばっていた由。病院で「自動車保険の手続きのお手伝い」している小沢栄太郎VSぶつけた運送屋につく事故防止組合の小池朝雄。ふたりの怪演対決で映画は盛り上がる。

やり切れないのは、全日交通なるトラック会社の事故係の川地民夫。事故(彼女の飛び出し)で顔に傷受けた松本典子はモデルを廃業して四本煙突の見える長屋の実家に戻り、川地に「無関心が一番嬉しいの」。仲良くなってマンドリン弾いていたのに後遺症で亡くなってしまう。松本のマンションで私が死んでお詫びをと狂った振りする川地の上司の佐野浅夫もまた切ない。「俺は小学校出なんだ、人の嫌がる仕事するんだ」。

その川地の親父が小沢と判明するのは黒い笑いがある。親父曰く「お前の仕事見て始めたんだ」。患者にいかに手続きが煩瑣かを説明し、事務局長の下元勉と一緒に口説く。下元は看護師の久里千春の個室に忍び込んでパンティの匂い嗅ぐという無茶なシーンがある、ベストショットであろう。久里は川地を誘惑し、翌朝に責任取って結婚をと云う川地に「女が誘ったのよ、やり得じゃん」と別れるDay Tripperの展開。

小沢はヤクザ相手に土地差し押さえの強制執行する執行屋の藤村有弘とも手を組む。藤村はコリアンで得意の出鱈目外国語を話す。そして相場10万に対して280万円の請求など。川地はノイローゼで自社ダンプに轢かれて死亡というブラック。「大きな葬式出してやるで」と乗り込んだ小沢は息子の会社から飛び込み自殺との見解が示され(自分の会社の事故係のストレスが考慮! されるのだった)、冷凍魚の損害賠償を請求される。「おのれら示談屋以上やないか」と怒る小沢は示談屋商売に奔走するという曰く云い難いラスト。

「交通戦争」は年間死者が1万人を超えた1959年頃から云われ始め、以降も毎年増加、ナルセの『ひき逃げ』は66年、そして71年に減少に転じる。減少の要因のひとつはオイルショックらしく、コロナ禍でCO2排出量が減るのと構造は似たようなものであった。

(評価:★4)

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