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[コメント] 狼をさがして(2020/韓国)

東アジア反日武装戦線、元活動家の三名について語られ、うち一名は出所の様子が記録される。暴力革命の是非はじめ動機の在り様が生々しい。短尺で不足感は否めないがこれ以上の主張は憚られたのかも知れず。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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主に取り上げられるのは三名。すでに死去した大道寺将司氏の残した多くの文章、「腹腹時計」の引用と獄中記、獄中で読んだ句が紹介される。大道寺の当時のパートナーで幇助罪を受けた荒井まり子DB氏の、老母との生活も描写される。すでに出所している宇賀神寿一氏については、現在の活動と患ったパーキンソン病が短く述べられる。浴田由紀子氏については最も詳細で、リアルタイムで収監中の支援者の様子から、出所、実家への帰省(駅の自動改札に戸惑うののがリアル)、近所の拒否で同居が叶わないことまでが記録される。無口で飄々とした人柄が意外だった。

事件の動機は企業の戦争責任追及であること、また74年の朴正煕大統領暗殺に呼応したこと、「世界」連載の「TK生の通信」への共感が語られる。対象とされた三菱重工は代表的な死のメーカー、大成建設(旧大倉組)は信濃川発電所での朝鮮人労働者虐殺、鹿島組は花岡鉱山での同虐殺が、間組は木曾谷発電所とマレーシアのダム建設における外国人酷使と語られる。この、現在の徴用工の件とも重なる事件群について、もっと情報がほしかったが、この中篇映画では駆け足に終わっている。

監督は釜ヶ崎の記録映画の取材からこの主題に出会っている。寄せ場と新左翼活動の親和性が浮かび上がり、当時は支援から活動家になった者もあった由。また、故郷釧路のアイヌ差別の歴史が大道寺氏をマイノリティ擁護に向かわせたと語られ、黒川芳正『母たち』の引用によりアイヌ集落の映像も挟まれる。彼の獄中記による謝罪と自己批判が語られ、京大名誉教授池田浩士が、人殺しは無効と解説する。国家の暴力は裁判に至るまで暴力に見えないが、私たちの暴力は簡単に露見するという非対称性を語っている。

「反日」という言葉が肯定的に使用される世界は逆に新鮮。現在、本邦には徴用工被害への謝罪の言説は呆れるほど少数だが、このテロルによって吹き飛んでしまった側面もあるだろう。徴用工を語れば反日という揶揄が飛んでくる訳だ。その点罪作りなテロルだったと思う。東アジア反日武装戦線を描く映画が被害者の国で製作され、本邦にはないというのも貧しい事態だと思う。

(評価:★4)

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