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[コメント] 学校II(1996/日)

「馬鹿」を常にフィルムの隅に描き続ける山田洋次の面目躍如
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ウンコ垂れる神戸浩のブラック・ユーモアの数々が素晴らしい。笑うでしょ。これを気の毒という視点から見てはいけない映画だと思う。

西田敏行は予想された説教を何も垂れない。ただ「子供たちから学んだことを返すだけだ」と云う。整然と積み上げられた印刷物をまき散らす神戸の悪戯に西田も参加する。このとき逆撫でされ嗤われるのは、効率優先の社会にどっぷり浸かった私たちの感性だ。こんな愉しいハプニングを、養護学校のなかだけに閉じ込めるのは間違っているのではないか。だから山田監督は「馬鹿」が町中にいる風景を理想として描き続ける。このとき彼はフーコーの狂気の「大監禁時代」批判と認識を共有している。

むろんこれでは社会に出て行けない。現実が詳述される。西田のクリーニング工場の社長への食い下がりではもう、理想などうたわない。ただ泥臭い弁論を駆使する(私の拙い経験でも、養護学校の先生はいつもいい就職口を求めて悩んでおられる。会社には補助金も出るのだが、それでも景気の動向をモロに被る)。工場の控室の描写は現代社会の縮図のようだ。なぜどこにでもいるのだろう、ああいう厭な先輩。

本作、吉岡秀隆の就職や浜崎あゆみの進路など、何も纏めようとしない。いろいろあったけど良かったねなどという白々しい結末など、養護学校の現実を取材したら描けなかったのだと思う。ただ熱気球の描写で詩的に纏めるという、山田監督としては珍しい処理をするが、これがとても美しい。「馬鹿は高い処が好き」という差別的な言辞をも許容する理想を示して殆ど凄味すら感じる。彼等を社会から隠すな、という主張が一貫している。「とうとう最後まで声聞いてくれなかったね」と云われた生徒が卒業式の体育館から風船を見上げるショットに連なるのがまた素晴らしい。

本作唯一の失敗は、いしだあゆみにギター弾かせるというオールド・ポップス・ファン垂涎のカットを正面から捉えないという怠慢。むろん些細なことではある。

(評価:★5)

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