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[コメント] 疑惑(1982/日)

話運びの巧さや女優陣の格で魅入っちゃうけど、実は大した映画じゃないんじゃないか疑惑。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







2019年に初鑑賞。 後年に観ちゃうと、いろいろ情報が入ってきちゃうんですが、そのおかげで私がこの映画に感じた違和感の説明がつくような気がする、という話を書きます。

私がこの映画に感じたいくつかの違和感。 まず最初は、柄本明演じる記者が前半の話を転がしている点。「むしろ柄本明が主役じゃね?」くらいの感じで観ていました。 実際、原作は新聞記者に焦点が当てられているそうです。未読ですけどね。つまり松本清張原作の持つ「社会派」は、マスコミ批判だったのではないでしょうか。

ところが映画化に際して、「松本清張脚色」で、原作では男性だった弁護士が女性に書き換えられた。 その結果、原作が本来持っていた「マスコミ批判」という社会派要素よりも「岩下vs桃井」二大女優対決に興味が集まってしまう。そうすると描くべき主軸がブレた印象になって、左遷された負け柄本明の遠吠えも取って付けたように見えてしまう。

岩下vs桃井でワインぶっかけたりするシーンも違和感。 野村芳太郎作品をそれほど多く観ているわけでもないんですが、こんな演出する人だったっけ?彼の映画で殴り合い(殴ってないけど)とか暴力的なものをあまり見たことがない。 そもそも女優対決って野村芳太郎の得意ジャンルじゃないと思うんですよね。 『事件』とか『配達されない三通の手紙』とかは新藤兼人脚本マジックであって野村芳太郎の手腕じゃない。

後に知ったのですが、このシーンは松本清張の主張だったそうで、野村芳太郎は反対だったそうです。 野村芳太郎って大の推理小説好きなんです。彼は謎解きが好きなんですよ。 だから、エピローグで取って付けたようなキャットファイトをやらせるより、裁判で決着つけたかったんじゃないかと思うんです。 実際、新藤兼人マジックの『事件』は裁判の過程で、橋本忍・山田洋次マジックの『砂の器』は動機解明の過程で、情緒的な部分も無理なく決着させてるんですよ。

それに現在の目で見ると、我々が見たい岩下志麻らしい岩下志麻、桃井かおりらしい桃井かおりではない。やっぱり「志麻姐さん」であり「かおり姉さん」が観たいんですよ。こんなバツイチ女弁護士とアバズレ小娘じゃない。 もしかすると当時は、二人にとって新境地だったのかもしれません。だったらなおさら野村芳太郎向きじゃなかったと思うんですよね。 つい魅入っちゃうけど、いろいろボタンを掛け違っている印象。

野村芳太郎「晩年の一作」という印象だったんですが、実はまだ63歳だったんですな。ちなみに松本清張73歳。 1978年に二人が立ち上げた霧プロの映画2作目だと思います。

この二人のコンビは、野村芳太郎の出世作『張り込み』(58年)を皮切りに、同様に橋本忍が脚本を手掛けた『影の車』(70年)、橋本忍に加え山田洋次も脚本に加わった『ゼロの焦点』(61年)、『砂の器』(74年)、井手雅人が脚本の『鬼畜』と傑作揃いです。

しかしどれも霧プロ以前。

松竹・霧プロ第1回提携作品は『わるいやつら』(80年)。 そしてこの『疑惑』(82年)。『迷走地図』(83年)。野村芳太郎監督作はこれしかありません。他は三村晴彦監督作の『天城越え』(83年)と『彩り河』(84年)。そして84年に霧プロは解散します。

霧プロでは松本清張がだいぶ映画製作に口を出したという話もあります。 野村芳太郎の腕が落ちたのかもしれませんが、そう老け込む年齢でもないし、この『疑惑』を観る限り話運びなんかは相変わらず巧いと思うんですよ。 霧プロ作品がイマイチなのは松本清張が原因なんじゃないか疑惑。

(19.07.28 Amazon Prime Videoにて鑑賞)

(評価:★3)

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