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[コメント] ミスティック・リバー(2003/米)

親であること子であること。半径3メートルの愛。偶然が連鎖して引き金をひいてしまう犯罪。強い者はどこかしら優越感に浸り傲慢で、弱い者は何故か卑屈で挙動不審。だから人間に関わりたくないんだという厭世観。それでも人間を知りたいんだという欲求。
Linus

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







友達が「ミスティック・リバーってさ。凄く上手くできてるんだけど、 ラスト30分が、何それー? ってオチなんだよね」と言ってたので、私、 ずーと犯人はショーン・ペンだと思ってました。悲しそうな演技しちゃって、 実は前妻の子供を憎んでるか、物凄く愛していて、自分を捨ててベガスに駆け落ち する前に殺してしまったんだと。

まあ、これは脚本家は意図して作ってるんじゃないでしょうか? 見ている人に、 犯人は「被害者の父親」か「トラウマを抱えた友人」だと思わせながら、 物語をひっぱっていく構造だと推測します。だから、あの犯人をちょこんと 持ってくるやり方は、それってさぁ〜。手抜きだよねぇという感想を持ってしまうのは否めないことでしょう。

脚本家は、『L.A.コンフィデンシャル』と同じ人らしく、だからか、 刑事、父親、トラウマを抱えた男の3人を用意して、その背後をこれでもかこれでもか と微に入り細をうがって、書き込んでいるのに、犯人だけは「異常犯罪者」の 一言で片付け、動機も背景もわからないまま。おいおい、マジーって感じです。

例えば日本だとこの「異常犯罪者」の範疇に入るのは、宮崎勤とか酒鬼薔薇聖斗だと 思うんですが、あまり彼たちに関する本は読んでないので、ここからは 断定できないのですが、ある時期に「死」の妄想に取りつかれてしまった節があります。この二人は、核家族ではなく、祖父や祖母と一緒に暮らしていて、小学生か なんかの時に、自分のことを庇護してくれていた祖父なり祖母が死ぬわけです。 子供にとって初めて接する「死」という物が、おじいさんやおばあさんで、 人間には必ず終わりがやって来ることを認識するそうです。 確かに私個人は核家族で育ち、初めて「死」を認識したのは、 飼っていた犬で、数カ月、悲しくて立ち直れなかったことがあります。

で、何故、おじいさんやおばあさんが亡くなって、そんなに子供が神経質に なるのか? という意見があるかと推測するんですが、一言で言うと、「大事にされ すぎてる」ということに尽きると思います。私はある年配者(昭和10年代生まれ)に 「今の子は弱すぎる」と言われたことがあります。私は「私たちには、絶対的な 不幸がないんです。例えば戦争中だったら、戦争という 絶対的な不幸があった。この絶対的不幸の前では、日常の些細な不幸は 吹き飛んでしまったわけです。戦争に比べたら、何でもできると、 相対化して戦後を生き抜いた人々がいることはわかってます。でも私達が 相対化できることは、両親が不仲であるとか、志望校に受からないとか、 恋人ができないとか、周りの人間関係とか、仕事が上手くいかないとかで、 絶対的不幸がないから、つまんないことでクヨクヨしちゃうんです」 と言い返しました。その年配者はわかったようなわからないような顔を していました。

戦争を知ってる人間にしたら、「死」はもっと身近な物なのだろうけど、 私たちには遠い場所にある筈の物で、ある時、ふっとそれが目の前に 表れると、ショックが大きすぎて、その「死」の妄想にとりつかれ、 ある異常犯罪者を生み出す結果になっているのだと、私個人は思っています。 つまり「異常犯罪者」にも、時代とか家族とか社会とか、 そうなる経緯がある筈なのに、この映画ではないがしろにしてしまい、 「手抜き」としか見えませんでした。

それからラスト30分の描き方も腑に落ちませんでした。何故、人は、家族しか 愛さないのでしょう? 他人はどうでもいいんでしょう? それが現代の病理と言ったら、それまでですが、 最近、とみに自己肯定する人間が多すぎる気がします。私はある時期、 全共闘世代の本を読んでいたのですが、彼らは、異常に自己否定ばかり してました。何をやっても批判するわけです。重箱の隅をつつくみたいに。 その反動(アメリカだったらベトナム戦争の自己批判の反動? アメリカの 現代史はよくわかりません)か知りませんが、今の人たちは、 プライドが高くて全能感に満たされている。 こういう人たちを「自己愛性人格障害」と言うそうです。ほとんどが、 両親に問題あるそうですが。

なんかさー。もっと自分に疑問を持とうよー。って言ってやりたくなります。 映画に出てくる登場人物に、ZAZEN BOYSの「自問自答」を聞かせてやりたく なるのでした。(でもまだこういう歌に影響されてる私も青臭いバカなのかも しれないけど…)

ZAZEN BOYS 「自問自答」

日曜日の真っ昼間 俺は人込みに紛れ込んでいた 

強い日差しが真っ白けっけの店ん中に混ざり込んでいた

若い父親と小さい娘がなんか美味そうなもんにかじりついていた

笑っていた ガキが笑っていた

なーんも知らずにただガキが笑っていた 

純粋な 無垢な 真っ白な その笑顔は

汚染された俺等が生み出したこの世の全てを何も知らずにただ笑っていた

新宿三丁目の平和武装や 片目がつぶれた野良猫が発する体臭や

堕胎手術や 30分間25000円の過ちや

陰口叩いて溜飲を下げとる奴等や 徒党を組んで安心してる奴等や

さりげなく行われるURAGIRIや 孤独主義者のくだらんさや

自意識過剰と自尊心の拡大や 

気休めの言葉や 一生の恥や 投げやりや 虚無や

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ダリア[*]

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