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[コメント] 哀れなるものたち(2023/英)

ヴィクトリア朝男性をぶった斬っているようなふりして現代の男性をぶった斬りつつ、返す刀で現代女性に「君らは今どうよ」と問いかける(妻談)一筋縄ではいかない物語。ランティモスお得意の不穏な空気に満ち満ちた、いやな話。でも好き。(レビューでは原作についての大ネタバレあり。ご注意を)
月魚

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







人工的な色合い、ヴィクトリア朝ではありえないベラの衣装、奇妙な乗り物といった様々な要素が「これは誰かによって語られている物語である」ということを暗示しているのではないかというのが原作既読者の感想。原作では作者アラスター・グレイ、マッキャンドルス、ベラ(ヴィクトリア)という三人の語りによる重層構造が一種の罠(というか叙述ミステリ)となっているのですが、本作はその中からかマッキャンドルスの手記部分だけが映像化されています。しかし(手記を出版した作者によって一番後ろに持っていかれたという設定の)ベラによる序文では「そのマッキャンドルスの手記は嘘っぱちで、ベラには両親がちゃんといて云々」というどんでん返しをかましてきます(真相はどちらでも、なわけですが)。えーってなる。つまり、本作はベラの序文が真実であるという前提で、こちらは「うそっぱち」の物語であるということを映像で表現しているという見方もできるのではないかと思った次第。

という話とは別に、『女王陛下のお気に入り』ではマニエリスム的色彩でドロドロした宮廷劇を描き、本作では(一緒に見た妻曰くところの)テクニカラー的色彩で狂ったファンタジーを表現し、でもどちらも気味の悪い(カメラワークというより)レンズワークで不穏さを表現するランティモスの映像へのこだわりっぷりも楽しめました。

さらにどうでもいいことですが、これ80年代〜90年代のミニシアター濃度が非常に強くて、そもそも全国公開するような映画とは思えなかったですね。冒頭のフォントやらモノクロ映像やらエマ・ストーンの奇形的芝居やら、なんだかブラザーズ・クエイの『ベンヤメンタ学院』だったし。

(評価:★5)

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