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[コメント] 新・仁義の墓場(2002/日)

あらゆるロマン化を排した<非>ヒロイズムの極北を体現する独りぼっちの狂犬が、孤独な女との間で交わした血の契り。それは兄弟の盃を交わす男同士の絆よりも、はるかに強く深く激しかった。
crossage

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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パンチパーマで眉毛がないポン中のおっさんがステテコ一丁でマンションに篭城。マンションを包囲した機動隊に向けて後先考えず拳銃を撃ちまくって、弾が切れたら即白旗。まるで「警視庁密着24時」系の犯罪ドキュメンタリ番組で流れてそうな映像。オリジナル版の渡哲也が演じた物々しい立ち居振舞いと比較するに、ここまでロマン化を排したヘタレ描写に徹する、その潔さが凄まじい。そもそも主人公ヤクザの風貌が眉なしパンチパーマ(しかも演じるのは馬顔の岸谷五朗)という時点で、ヤクザ映画の任侠美学に真逆すること甚だしい。ヒロイズムでも、その裏返しの(結局はヒロイズムと同じように美学化される)反ヒロイズムでもない、あらゆる美学化とロマン化を排した<非>ヒロイズムの極北。

そしてその<非>ヒロイズム的な演出ゆえに、見てくれなんか気にする余裕もなくただひたすら生きることに必死だった男の生が際立ち、にもかかわらず凄絶な自滅の道を突き進むほかなかった宿命的な哀れさに胸を打たれる。そういえば、ジョン・ウーばりのロングコートと二挺拳銃で仰々しく大暴れする殺し屋(田口トモロヲ?*1)を、岸谷がうっとうしい蝿を追い払うぐらいの感覚であっさり片付けてしまう冒頭付近のシークエンスなんか、思い入れたっぷりなヤクザ美学への揶揄のように見えなくもない。

智恵子(有森也美)をカラオケボックスで犯したときの、壁にこすりつけられた経血。親父(山城新伍)の悪口を言った男を殺して、逃げるように智恵子の家に駆けつけたときの、窓にこすりつけられた返り血。男同士で交わされる兄弟の盃よりも強かった、男女の間で交わされた血の契り。2人は運命を共にすることを人知れず誓いあい、生まれて、生きて、死んだ。シャブにまみれながら。

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(*1)田口トモロヲではなく、三池崇史御大その人だったようです。「三池ドコモ」という芸名で、他の映画にも何本か出演しているそうです。(奥田K子さん情報)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] 町田[*] sawa:38[*]

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