[コメント] レイジング・ブル(1980/米)
今でも時々この映画がカラーだったら…と恐ろしくなることがある。
それほどこの映画のマイケル・チャップマンによる白黒撮影は素晴らしい。しかもこのただでさえ素晴らしい撮影は、途中で挿入される(ある意味最も印象的な)彼が最高に幸せだった時期を切り取った8ミリ風のカラーフィルムをより際立たせていることにも一役買っていたり、ただのチョコレートを恐ろしい血のりに見せたりという効果をも生んだというのだから、スコセッシをはじめとするこの映画に関わった人たちの才にはまったく羨望のまなざしを向けるしかない。
またこの映画は一般的にはデ・ニーロが体重を20数キロ増やしたことでよく知られ、もちろん彼自身は驚くべき熱演で私たちを興奮させ泣かせてくれたわけなのだが、それ以外にも妻役のキャシー・モリアーティ、さらには弟役のジョー・ペシ、あるいはそこに絡んでくるスポンサーたちの存在も決して忘れてはならないポイントであろうと思う。彼らの、場面によってはデ・ニーロを食ってしまうほどの存在感があってはじめて、デ・ニーロ自身の「攻め」だけではない「受け」の演技も生きたように思えるのだ。
さらに物語的には、やはりあの壁へのパンチに泣いてしまった。彼はただ孤独が怖かっただけなのだ。そして、本来ならばそんな孤独に怯える己へ向けるべき拳を対戦相手に浴びせていただけなのだ。そんな彼が殴るべき相手を失い、自分自身の孤独と正面きって向き合ったときのあの姿。とても見ていられなかった。
そして最後はあの音楽にとどめをさす。私は名作には名曲ありきとは決して思わないが、この映画だけは別。そういう意味でも深く印象に残る作品だ。
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