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[コメント] 人斬り与太 狂犬三兄弟(1972/日)

渚まゆみのラーメンにチャーシューのせる文太。これが彼がこの世でなした、たった一度の善行なのだ。「蜘蛛の糸」のカンダタが蜘蛛助けたみたいな。本作の暴力描写はいまだに本邦映画100年の頂点。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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この描写力、もう教科書であり、研究され尽くしているだろうに、いまだに深作全盛期を超えるものを観たことがない。なぜなんだろう。スタッフ力ということなのか。

流れるような撮影と無骨を強調する編集、背景はしばしば望遠でペシャンコにされ、キャメラ横倒しも『仁義』より派手だ。前作『人斬り与太』と比べても飛躍的なものがあったように思う。入れない道を爆走するクルマの描写も素晴らしい。最後は潰れた映画館のロケだろうか。路上に赤羽サウナという看板が見える。

強烈なのは菅井きんの住む湿地帯囲んだごみ捨てバラックで、これはリアルなんだろう。公害無法の厭な時代だったと思う。日蓮宗のお経唱えるきんさんは阪妻『王将』と共鳴し、創価学会の果たした役割が伝わってくるものがある。

東北から上京した娘は当時、渚のようにあしらわれたのだろうか。彼女は何も喋らないが、松田寛夫神波史男コンビは直後に梶芽衣子がほとんど喋らない『女囚さそり 第41雑居房』を物している。

次第にシリアスになり古典悲劇のように終わるのだが、冒頭はコメディであり、文太に包丁くれと云われて震え上がる店員が素晴らしい(お前包丁売っているんだろうに)。内田朝雄は最高で、死の運命に向かって幼児退行するような造形がシュールだ。ただ、最後の渚が「狂犬の血を引いた赤ん坊を産んだ」の字幕は優生学的で大いに余計。次作以降の実録ものを予告しているのではあるが、フィルム自体が社会学の対象になってしまっている。再見。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)DSCH ぽんしゅう[*]

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