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[コメント] 競輪上人行状記(1963/日)

映画全体を通じて、ラストの小沢の鬼気迫る口上の長回しカットが白眉だとは思うが、こゝは役者としての小沢昭一の凄味を感じる部分であり、演出家の仕事として、最もぶっ飛んでいるのは、渡辺美佐子へのディレクションだろう。いや、本作の渡辺美佐子は最高。
ゑぎ

 正直、前半までは、どうしてこんなにファンのいる映画か分からない、と思いながら見ていたのだが、この映画、尻上がりにどんどんよくなる。カメラワークでは、中盤、小沢昭一が、奈良か京都へ行き、加行(けぎょう)と呼ばれる修行をするシーンで、寺の中、修行僧達が読経するカットをトラック移動で収めているのに驚く。或いは、南田洋子が秘密を告白するシーンのパンニング主体のカメラワークと、加えて、ともすれば生硬なカット割りも強烈だ。このあたりから、演出の調子がとてもよくなるのだ。

 しかし、渡辺美佐子は、なんと競輪場で余計な車券を買わないように、階段の手すりに、紐で体を括りつけている、競輪ジャンキー女、という設定からして常軌を逸しているのだが(それは、多分、寺内大吉の原作にあるのだろう)、その目の座った表情といい、車券を買いたくて身悶える所作といい、やっぱり、これは演出家の仕事が素晴らしい。その後のホテルでの「苦い」という科白のクダリも最高じゃないか。このシーン、観客は「苦い」の科白まで何が起こっているのか分からない、しかし、「苦い」の科白ですべて分かる、というこの見せ方がキレキレなのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペンクロフ[*] 寒山拾得[*]

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