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[コメント] 華氏451(1966/英=仏)

私には、本を丸々暗記している暇などこれっぽっちもないのである。
ナム太郎

トリュフォーの本への愛を感じる、まさに愛おしさ溢れる作品ではあるのだが、イギリスという舞台は、いくらヒッチコック好きな彼であっても本質的に合わないのだなということが明確に表れている作品でもあると思う。ハーマンの音楽は時おり邪魔に感じるところもあるし、トリュフォーにとっては初めてのカラー作品となったローグの撮影も、それまでのクタールとのコンビ作ほどには効果をあげていない(そもそも、同じ撮影所で撮っていた小津でさえも、初のカラー作品である『彼岸花』には苦戦したのだ。それが母国以外の、初めてのスタジオでの作品であれば尚更のことだったであろう。その点は彼に同情するところもある)。が、完璧ではないにせよ、やはりお得意の「女優が歩く」シーンの素晴らしさは特筆しておくべきであろう。結果的には『ダーリング』や『ドクトル・ジバゴ』で本作までにブレイクしてしまったクリスティにいち早く着目し、出演交渉していたという慧眼にも驚かされるが、彼女がコンプレックスを抱いていたという肉体的な線の細さがトリュフォーの映画の中では際立って美しく映えてむしろプラスに作用している点もさすがだと唸らざるを得ない(あとはモノレールの造形にも素晴らしく心くすぐられます)。とはいえ、多くの方が絶賛されているラストが私には今ひとつに思えた(見えた)のも確かで、いやいや、彼の力ならもっと美しい画が残せたはずだとの思いを決して消し去ることはできないのである。もしこれが物語は物語としてその柱を借りつつも、純粋にフランスで、いつも通りのトリュフォータッチで撮られた作品であったなら、いったいどれほどの魅力溢れる摩訶不思議な作品となっていたことであろうか。そんなことを常々思ってしまっている私には、本を丸々暗記している暇などこれっぽっちもないのである。

(評価:★3)

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