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[コメント] アイデン&ティティ(2003/日)

いい匂いの青春映画ではあるんだけど、価値観ってもっと多様でいいし、その中でもっと自分だけを見てていいと思うんだ。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 実際のところ、現実には100人の人間がいたら100種類の全く違う音楽が存在してて、その中から似たもの同士の集まりに線引きをすることで「こいつらはロック」「こいつらはポップ」なんて枠組が出来上がってる気がする。だとしたらジャンルという枠には「整理」という意味以外に大した価値はないわけで、それはうっかりすると「帰属意識」みたいなものになりかねない。

 ただそれでも尚ロックがロックであることにこだわり続けるとするなら、それは今作の中で語られる通り「自分のやりたいことをキチンとやる」ことに集約されてくるんだろう。でも本当はポップを歌って売れて行く人も、人知れず津軽三味線だけ弾いてる人も、極端なことを言えばギターを捨てて家族のために係長やってる人も、みんな「自分のやりたいこと」をやってるんだ。そこの価値観というのは常に等価であるべきで、「あっちがクソ」とか「こっちが純粋」とかの話じゃない。僕は割とどっちもちゃんと出来ないタイプなので、強くそう思う。

 今作はそういった内省を全く孕まずに、あくまで“ロック的”価値観の中を進んでいく。それは皆が昔抱いた「勝手な大人の言いなりにはならない」みたいな情感を回顧する作業になるから、「昔のように明日も力一杯頑張ろう」という“心のリセット作業”にはなるのかも知れない。それはそれで大事だと思うんだけど、でもそれだけじゃ答えには辿り着かない気がするんだよな。自分を自分のままで保ち続けたみうらじゅんなら、もう一歩先の景色を知ってるんじゃないかと思う。本当に撃つべきは「大人」なんていう漠然としたものじゃないはずだ。実際あんまりそんな大人っていない。

 まぁだからと言って今作を青臭いと鼻で笑って終わりにする気にもならない。大人が実際にいようがいまいが、誰だって昔に置いてきたものはある。そこには確かに価値があると思ってる。でもそれは本当は劇中の岸部四郎にだってあるはずで、彼を否定しながら自分たちは焼き鳥屋で懸命に働いて美しいっていうのは、ちょっと二元論すぎやしないかと思うってことだ。麻生久美子が主人公を全肯定するように、映画それ自体が彼を全肯定しているように見える。僕は人の価値を肯定しながら自分の価値を突き進む物語の方が好きだ。

 あと名前が出たから言うけど麻生久美子。まぁ麻生久美子。美人で聡明で彼氏を100%理解して肯定する麻生久美子。これ精神的なエロ本だと思う。僕もこの人と銭湯に行きたい。そこでロックしたい。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)きわ[*] ぽんしゅう[*] ペペロンチーノ[*]

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