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[コメント] 私の中のもうひとりの私(1988/米)

自分に言われてはじめて気付けることもある。
ろびんますく

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アレンは当初はコメディタッチのものを予定していたようだが、コミックリリーフを一切挿まぬことによって、作品全体が引き締まっていた。84分間という比較的短い上映時間も正解。最後まで一気に引き込まれた。

映画の中では必ずしも明らかにはされないが、ミア・ファロー演じる女性Hope(希望)は、おそらくジーナ・ローランズ演じる主人公の心の声なのだろう。主人公自身も、それにどことなく気付いている節はある。良い邦題だ。(ただ、『ファイト・クラブ』的発見がなくて本当に良かったが。)

大人になるということは厄介なことだ。人間は、歳をとるにつれて、自分の生き方について誰に何を言われようと、たとえそれが正論であったとしても(あるいは正論であればあるほど)聞く耳を持たなくなりがちだ。また、自ら自分の過ちに気付いていたとしても、それを容易には認めようとはしない。そうすることで、これまで自分の築いてきた「自分」が拠って立つ全てが音を立てて崩壊していくのではないかと怖いからだ。主人公のように人生を突っ走って生きてきたような人物、人生で何かを成し遂げたと目されている人物であれば、それは尚更のことだろう。

自分の人生、自分の生き方を振り返って見直すという一大作業とそれに対する恐怖心。それを乗り越えるために必要な背中の一押しをしてくれる人物として主人公の中から生まれたのがHopeなのだろう。他人には言われたくはないが、自分ひとりでは心細い。ただ、私の中のもうひとりの私に気付かせてもらえるのなら、どうにかやれるかもしれない。なんと優しい監督の視点だろう。

彼女の生き方がこれから一転するかはわからない。50で生き方を変えるなんてのはそう簡単なことじゃないはずだ。ただ、少しずつでも変わっていけるかもしれないという希望は持てる。Hopeが主人公の前から姿を消したのは、私の中のもうひとりの私であった彼女が、私の不可分な一部になったということを意味しているのだと解釈したい。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ころ阿弥[*] moot tredair[*]

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