[コメント] 無能の人(1991/日)
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邦画史的には重要な作品なんだろう。功績はふたつあって、ひとつは風吹ジュンの第2のキャリアをお膳立てしたこと、もうひとつはバブル末期に邦画伝統の貧乏噺を復活させたことだろう。当時、そんな映画は殆どなかったものだった。
ただし、その貧乏は芸術家ほか変わり者たちの病という切り口であり、経済とは何も関係がなさそうで、一家は別に貧乏に見えないし、河原に建てられる石屋の佇まいは貧乏というよりはクールだし、風吹はいつでも競輪場の売り子に戻れたりする。なぜ蝮を飼うのか問われて神戸浩は「将来、石だけでは(食べていくには)不安ですから」といいギャグを飛ばすのだが、実際はどちらが駄目になっても平気そうなのだ。レトロ趣味な町中の八百屋なんか、いまの地方都市では壊滅しちゃった贅沢な風景だし、競輪場も民宿も虚無僧もその類だろう。
これらは当時の、バブルが崩壊するなど思ってもいなかった庶民感情を正確に反映しているだろう。好きなことやって生きていこうよ、貧乏なんか平気だよ、という励ましが本作の主張な訳で、それはいつの時代も普遍的な問いかけなのだが、その時代背景がバブル期ではインパクトがとても低いのである。いま観ると。最後に川渡しを始める竹中直人の怒気もまた趣味的に見えてしまい、云いたいことは判る気がするのだが、イマイチ突き抜けない。
美術が安手なのは仕方ないのだろうが、撮影もまるで面白くない。石売りの話なのに石を殆ど撮る気がないのが基本的に貧しい。素人集めて棒読み科白で原作の世界を(当時流行のオヅ的なスパイスで)構築しようとしているような処があるのに、主演ふたりが上手すぎて中途半端に終わっている(神戸と山口美也子だけがこの趣旨を徹底している)。鳥男の神代辰巳はすごい存在感で、彼メインで観たかった。昔観たときは、もっと何ものかであったような記憶があったのだけど残念。
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