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[コメント] 菊豆〈チュイトウ〉(1990/日=中国)

菊豆の哀しげな表情が情熱に目覚め天青の呪縛を赤く照らしていく経過に痺れた。
ジャイアント白田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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天白が「お父さん」と呼ぶ事を偽父親に洗脳されて成長し、天青を殺すまでに至ったところに紅衛兵を彷彿とさせ心に染みる。ラストの菊豆によって放たれた炎の美しさが、悲劇をより鮮明な色に仕上げていて涙を誘う。

一族の掟を守る事と家父長制を駆使する事に生き甲斐を憶え、長きに渡って一族を支配しようとする長老たち。彼らは制度疲労から染み出てくる軋む音(犠牲になる、殺される人々の叫び声)をBGMに権力を振りかざし傍若無人に振る舞う姿は腐敗国家に直結する。チャンイーモウ監督の理念と精神が色濃く巧みに反映されている作品であるのだけれども、社会派だけで終わらせていないところに鳥肌が立つ。

天青は兄を人間的には嫌いながらも職人としては一定の評価を与えていたのと、染物業という仕事に誇りを持っていた(「天白にこの家業を継いで欲しいのだ」と言ったシーンから)ので、三人で村を去る行動に二の足を踏んでいたのであろう。そして菊豆はその呪縛を理解できずに彼を弱い男として見てしまうも、時間が過ぎていくにつれ自分自身の将来を案じて二の足を踏み続ける。

上記以外にも数多く、弱者を蝕む構造が出来上がった社会において、いかに人が人として生きられなかったのかが丹念にリアルに描かれている。人間観察力&描写力に支えられた時代観察力と社会描写力が備わったチャンイーモウ監督の不朽の傑作。

2002/9/15

(評価:★5)

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