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[コメント] ゴジラ(1984/日)

「現実にゴジラが現われたら?」を多方面から徹底的にアプローチする姿勢は、この時代から試みられていたわけで、そういう点では大いに評価出来る。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ……9年ぶりのゴジラということで、当時の世間体は相当盛り上がったと聴く。自分は当時まだ小学1年、怪獣映画というものを全く知らなかった時期である。つまり、完全にノーマークだったのだ(数年後、怪獣好きになってからようやく鑑賞した)。まあ仕方が無いよね、その頃は鉄道少年だったんだから。で、今は怪獣好き? 我ながらどういう転移なんだと不思議に思う。

 まあそれはさておき、本編である。従来作品と違い、本作は「政治的な意図」というものが十二分に登場する。ゴジラ報道を自粛したり、逆に原潜事故をきっかけに公開に踏み切ったり、それと同時にアメリカ・ソ連両国から核兵器の使用を迫られたり、と。今まで一応触れられることもあったが(『キングコング対ゴジラ』にそういう台詞がある)、本格的なのはこれが始めてといえる。政治と絡めることで、子供向きとされてきた怪獣のイメージを覆し重厚長大さをかもし出させよう、という製作サイドの考えがどことなく伝わってくるようで、この辺は結構好きである。平成の世に入って大活躍した金子監督そして手塚監督も、この辺の影響を多少なりとも受けているはず。当時は「現実的過ぎる」という評価もあったそうだが、平成ガメラや新世紀ゴジラを見れば分かるように、要は先見の銘があったとすら思う(まあ結果論ですが)。

 ただ、それが完璧だったかというと疑問が浮かび上がる。ゴジラを現実的な面からアプローチしていった結果、現代の「核」問題というものも浮上してきたわけだが、これとゴジラの脅威が重なってしまった。ゴジラが東京に上陸する恐怖と、ソ連の衛星から誤発射されてしまった核ミサイルの恐怖。これで二重の恐怖が描けていれば大したものだが、いかんせん演出が淡々としすぎている。上手くいけば二重のサスペンスで物凄いパニック超大作になるところを、ゴジラと核ミサイルの二大巨頭を両者が重なることなく終わらせてしまっている(核ミサイルが爆発した時点で核に関する描写が終わってしまうのも弱すぎる)。これが本作の欠点。

 というか、「ゴジラが絶対の恐怖となって日本を襲う」ことをテーマに描こうとするなら、核兵器で生まれたゴジラが、核以上の……というよりは、あっても核兵器の存在感すら霞むくらいの脅威であり、畏れである必要があるのだ。ゴジラをピンで登場させるのならば、それくらいのものをぶつけないことには、第一作目のテーマに近付くことは出来ない。皮肉にもそれが出来ていたのは、ゴジラに怨念を背負わせた金子ゴジラだった。

 現実の「核」の恐怖と、ゴジラの恐怖は重ならない。にも関わらず『ゴジラvsデストロイア』ではそれを重ねてしまった。挙句、どう怖いかを説明する為に、科学理論をごちゃごちゃ持ち出して訳を分からなくしている。最初から破綻しているものを整合しようとしても、無駄だというのに。まだ「ゴジラと核の恐怖を重ねる」のではなく「ゴジラが核を狙う恐怖」を描いた『ゴジラvsビオランテ』の方がまだ合点が行く。

 まあ話はこんなだったが、そんな本作の中でも唯一キラ星の如く輝いていたのは、やはりスーパーXであろう。小六礼次郎によるあの音楽も含めて、殺伐とした中で希望を持たせてくれたような、そんな気さえした。これが一番の救いだったかも。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)おーい粗茶[*] 水那岐[*]

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