[コメント] 父、帰る(2003/露)
この映画が宗教性を帯びているのは一見して明らかだ。それはこの映画の物語や細部、構図などがキリスト教的な解釈を多分に許しているからなのだが、私はむしろこの映画の本質は「宗教性」ではなく「聖性」だと云いたい。そしてこの聖性は決してキリスト教的なものによるのではなく、ただただ完璧な画面によるものなのだ。
完璧な画面のみが纏いうる聖性。そのような聖性を手にしえた映画として、私はとりあえず『ゲアトルーズ』『捜索者』『秋刀魚の味』の名を挙げてみたい。むろん『父、帰る』がその三作に比肩するほどの作品だなどという大言を吐くつもりはない。しかし、その三作と並べても場違いではないほどに、『父、帰る』はやはり圧倒的な傑作である。
上映中、私は「ああ、もしカール・ドライヤーがカラー作品を撮っていたらこうなっていたのではないだろうか」という想いに囚われていた。と云っても、具体的には「風にそよぐ草」が『奇跡』を想起させただけであって、ドライヤーとズビャギンツェフに共通する何かを数多く見出したわけではない。しかし『父、帰る』に真に驚愕した者ならば、そのような私の想像をまったく愚かなものとして斥けることなど到底できないはずだ。
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