[コメント] やさしい嘘(2003/仏=ベルギー)
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歴史の縦糸とグルジアの現状(パリにおけるグルジア移民の生活)を描いた横糸とが、三世代の女系家族を媒介に過不足無く絡みついている。
男の存在が消え、没落の一途を辿っているこの家は、常に目の前の生活に追われざるをえない。かつて上流階級だった頃を基本と考える祖母と、一人で生計を支え常に現実と対面してきた母と、隔世遺伝で成績優秀ゆえ未来の想像が許される娘が見るものはそれぞればらばらであり、ときにこの三者の価値観は激しく対立する。
どうしても本作と『グッバイ、レーニン!』を比較してみたくなる。あの作品も共産圏の消滅が背景となり、家族に向けた嘘が主題になっていた。そのなかで『グッバイ、レーニン!』は、想像上の過去の東ドイツと現状のドイツの不遇とを結びつけたが、それはどこか机上の空論であり甘い回顧主義を想起させた。それに対し、本作は母と娘の価値観の相違を和解させるのではなく、明らかに断絶させた。「古き良き」共産圏の時代を回顧することに答えを見出すわけでも、ジリ貧なグルジアの現実に流されていくわけでもなく、過去や家族と一度断絶することで未来を掴み取ろうとした。祖国では優秀な医学生であった叔父がパリで直面した苦難を知っておきながら、敢えておこなった決断は、トルコ方面からあっさり戻ってきた少年のように生ぬるいものではない。
そしてこの断絶への決断は、共に生活していたときよりも三者の絆をむしろ強くした。この娘の姿にこそグルジアの未来を見出していきたい。優れたホームドラマは歴史を匂わせながら、時代と社会を映し出す。パリの夜景もこの家族の思いを鮮やかに浮かびあがらせていた。(★4.5)
*本作鑑賞後に観たのだが、『動くな、死ね、甦れ!』に登場する娘の顔が妙に印象に残り既視感を引き起こすので、気になって調べてみたら、本作の娘の幼い頃の姿だった。子どもの頃の面影のまま成長していた。
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