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[コメント] コラテラル(2004/米)

ヴィンセントはマックスの為に、あれだけプロ殺し屋としてアホなミスばかり繰り返していたんだよね?実はいい奴ヴィンセント。クールな演出、夜のLA映像に唸りまくり。音楽もさほど嫌いじゃない。 2004年11月3日劇場鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







製作総指揮にフランク・ダラボンの名前発見。彼の次回作を早く観たい。コツコツお金ためてるんでしょうか?

「皆適当な会社に就職して、10年後の保険をかけやがる。10分後を誰がわかる?」(うろ覚え)

実に強烈な台詞だ。『アレックス』の「時は全てを破壊する」と言う言葉を思い出した。勿論あれは意味が少し違う話だが、誰が数分後、数秒後を予知できる?そういうとマックス(ジェイミー・フォックス)はきっと言っただろう。「先が分からないから人生は面白いだ」とね。12年間タクシー運転手してベンツのカタログを見て成功した気分になっているにも関わらず、だ。

実を言うと、俺はヴィンセント(トム・クルーズ)の方に感情移入をしていた。もしかすると、その”感情移入”と言う奴はもしかするとマックスにしていたのかもしれない。つまり、「俺なんて所詮「夢見て満足しているだけのチキン野郎」」と言う気持ちが俺の中にまず第一にあるから、マックスに感情移入し、そしてヴィンセントが堂々と上記の台詞や、その他を言う姿に一種の憧れを抱いたのかもしれない。

恐らく脚本家含め製作サイド、マイケル・マンはそこまで計算した上でこの作品を作ったのだと思う。

マックスが何歳だか知らんが、勤続12年と言う壮絶に長い月日に、たった1夜にして強烈なパンチが降りかかってきた。そのパンチは決して悪意の篭った物ではなく思えた。この映画のスタイルのクールさを感じたと同時に、俺はこの映画の暖かい視線を感じた気がする(考えすぎ?)

前置きが長くなった(本来まとめに書くべき文章?)。

トム・クルーズの冷酷な殺し屋と言う役柄が話題の本作であるが、実際の所ジェイミー・フォックスの「夢見るチキンから、闘うチキンへ」演技に食われてしまっているのが実に可哀相。勿論、コレは脚本に少々問題がある為に思え、トム・クルーズの演技は実に健闘していた。

監督マイケル・マン。『ヒート』や『アリ』等の渋い作品を作った人だし、予告を見た限りストーリーも正直派手とは言えない出来なので、このCG&ワイヤー天国のハリウッドで、なんて渋い映画を作るんだ!と感じたが、同時に非常に不安を感じていた。で、実際本編を見てみて非常にガッカリした。

トム・クルーズの殺し屋としての描写が全てをぱぁにしてる気がするのだ。

銃を堂々と撃ちまくったり、次々人を殺したり。「フィーバー」だっけ?あの韓国人オーナーのクラブでのシーンなんて、完全に「アクション」のソレであって、この映画にあってはならない物だと思う。もっと硬派な作品だと思ったのだけどね。作品の第一印象はストーリー以上に映像や演出で決まると思うのだが、コレじゃ「アクション映画」だ。

話が進むにつれ警察が大規模に動き出す訳だが、比例して俺の心中も大きく揺れ動き始める。コレじゃスパイを捨てたイーサン=ハントだよ・・・ってそういえば『M:i−2』でもやってましたっけ?(笑)まぁあそこまで酷くは無いか。

但し、割り切ってみれば実にスーパークールな(殺し)演出だ。近年、格好をつける事ばかり「クール」に思われている中で、この映画は「殺す」事がスーパークールなのだ。コレに説得力を持たせるって、今のアクション映画の流れの中ではとてつもなく凄い事なんじゃないかと思う。俺がそういう事を感じるのは、彼が冷酷な殺し屋で何の躊躇も無く、派手な動きをする訳でもなく人を殺す点からなのだけど、やっぱりマガジンチェンジの素早さに、俺は一番カッコ良さを感じた。

ま、バンバン人を殺す傍らで会話劇でカッコイイ事を連発して言い続けるヴィンセントというのは、異常な程不釣合いで、演出がクールすぎる事が、アクションがカッコ良すぎる事が作品の質を下げていると俺は見る。

ま、コレは全て脚本に原因があると俺は思うのだけどね。マイケル・マンが下手なわけでも、トム・クルーズやジェイミー・フォックスの演技が悪い訳でも無いと断言したい。

脚本の詰めが甘いだけだ。ディテールに問題がありすぎる(根本的な物は凄く好きだから★4つけるのだが)。

開始早々、マックスは女検事を車に乗せる。そこでの会話が伏線になるのは容易に想像できたし、マックスが嬉しそうに何とか島の写真を自慢してみせたり、将来の夢を嬉しそうに語る所に「夢を持つ」事の素晴らしさと「夢を持つだけ」と言う事のアホらしさを垣間見て、コレが後々に話に絡んでくる、と言うのは誰でも容易に想像できたはずだ。

最後のターゲットが彼女、と言うのも、彼女じゃなければマックスがヴィンセントに対して行動を起こす必然性が生まれないのも、すぐ分かっちゃうしね。やっぱ穴だらけだと思う、この脚本は。

で、どうでもいい揚げ足としてはヴィンセントがプロの殺し屋に見えないとか、そう言う所かな。

反面、会話シーンは実に素晴らしい。OPの検事とマックスの会話で都市の冷たさ――後にヴィンセントが言う「地下鉄で男が死んだ。朝まで誰も気付かなかった」と言う話でも表現されているのだが、タクシー運転手と客(検事)の必要最低限の会話の冷たさがソレに当たる――と暖かさ――検事とマックスが和んだ雰囲気で”人間同士らしい”会話を始める事――を1シーンで表現してしまった事には驚いた。

そして、ヴィンセントとマックスの会話。実に巧い。

正直脚本がマイケル・マンの演出力に追いついて居ない気もするのだが、その反面、マイケル・マンじゃなかったら、どんなにヘタレな映画になったんだろうか、と思うと、この映画は一種の奇跡ではないかと思う。

「地下鉄で死んだ男が居た・・・」

ヴィンセントの心の隙間に吹き荒れる冷たい風。

12年間ベンツのカタログを見るだけで満足していたタクシー運転手。夢を見るだけで、一歩を踏み出さず、それでも自分が立派だと思っていた彼。

アメリカの貧困層からエリートビジネスマンに対する嫉妬にも見える(しかし最終的にマックスが「我が闘争」に立ち向かう所を見ると、結構謙虚な姿勢なのかもしれないけど)。

どちらにせよ、トム・クルーズカッコ良かった・・・特にブリーフケースを強奪した若者二人を殺すシーン。あれがクールって言うんだ。あれこそが。撃ち過ぎだけどね。

(評価:★4)

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