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[コメント] プラトーン(1986/米=英)

話法に勘違いがないとすれば、善悪の彼岸を描いてブニュエル・クラスの冷淡な作品
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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だって、米兵を殺すんだもの。悪に抗するには自ら悪にならねばならない、という収束だ。何もトリッキーなことを述べずに『地獄の黙示録』を反復している。これは凄い。思えばチャーリー・シーンが悪に徐々に加担せざるを得なくなる物語として、本作は一貫している。中盤の村の描写は実に毒々しい。描写に自然主義文学のような過度の客観性があり(村民だって疑わしいのだ)、この辺り素晴らしい。あんなことをしてしまって、正常でいられる訳はなかろう。

ラストで「生き延びた者は戦争を伝えねば」などと格好よさげに主人公は独白するが、本作がその伝達だとすれば、これは格好いい自伝などでは全然なく、告解に近かろう。しかし、それにしては仲間殺しの懺悔のニュアンスが全然ない。これが狂った印象を与える。この狂気も戦争のうちなのか。この太々しさは殆どブニュエルだ。本作が大ヒットしたのは、何かの間違いではないのだろうか。

「レイテ戦記」を読み進めていて、その傍証で観直した。ロケ地は同じフィリピン。第二次大戦で敗走し続けたのは日本軍だった(もちろん、ヘリで通う訳でなく、比較にならないぐらい凄惨だ)。日本に対してはあれほどの物量で圧倒したのに、何で米軍はベトナムではこんなにショボいのか。本編でも語られていたが、政府の本気度とか、資本投入の制限とか、背景にいろんな側面があったのだろう。やってられないのは最前線だ。日本もアメリカも。本作の撮影はカット割りが流暢に過ぎてイマイチだが、それでも密林の描写は金かけただけのことはあるリアルなもので、慄然とさせられる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ダリア[*] pori[*]

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