[コメント] 約三十の嘘(2004/日)
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対照的にエンドロールは旅情系2時間サスペンスドラマのそれのような、薄暗く地味な画面。本編でとり繕っていたつもりの化けの皮がはげ落ちた格好。
中谷美紀の――後の主演映画『嫌われ松子の一生』で致命的に明らかになる事だが――与えられた役柄に必須の‘チャーミングな愚かさ’が全く演じられないという限界の露呈。『ケイゾク』の柴田純のような浮世離れした天然キャラならこなせる中谷だが、生っぽい俗臭と呼べるものがほぼ皆無。だから、彼女の演じる「ババロアちゃん」こと宝田がその綽名に立腹する様子や、修学旅行中の学生たちのような車内の砕けた雰囲気の中での存在感、最後に志方(椎名桔平)への想いを、プライドも何もかなぐり捨てて発露してしまう場面など、宝田が宝田としてこの劇空間に存在する事のリアルさを発揮すべきポイントがことごとく不発に終わっている。
全体的にも、町田さんが既に指摘されているように、役者間の温度差が目にあまる。伴杏里の演技は、下手な上に薄い。彼女をとり巻いてアイドル扱いする男どもが全員、役割としての「大きな男子中学生みたいな大人」を頑張って演じているのが見えてしまう。あとの役者は演技のアクセントが多かれ少なかれ、ちと強すぎて芝居がかっている。椎名の自然な佇まいだけが一服の清涼剤。尤もあの役柄ならもう少しアクの強さが濃く出る男の方がよかったのかもしれず、やや微妙。
クレイジーケンバンドの歌が画面に介入してくる仕方もなんか嫌。今井(伴)が横山(八嶋智人)に「金を持って二人だけで逃げよう」と誘われる場面での「♪バスト、はちじゅうはっち」や、スーツケースの鍵がどの鍵でも開かない事が判明する場面での「♪ショオーック」などの、歌詞の説明的な鬱陶しさは『あの夏、いちばん静かな海。』で久石譲が「silent love」を連呼させたのよりもさらに悪い。特に「バスト・88」は、伴がこの場面に必要な筈のコミカルさや陽性さが全く無いので、妙に生々しい厭らしさが出てしまっていて不快だ。
ゴンゾウの造形はわりに好き。台詞で皆がそのデザインの可笑しさを嬉々として語っていたにも関らず、いざ画面にそれが登場すると、誰もゴンゾウの造形には言及せず、消えた金の行方にしか目がいっていない。一人黙って座っている、目つきの悪いパンダ…。ヘンに可笑しい。
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