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[コメント] ピアノ・ブルース(2003/米)

まったくもって端的かつ正確な標題だが、しかし、たといジャズを主としたクリント・イーストウッドの音楽愛好ぶりを知らなかったとしても、ブルーズとジャズにほとんど区別を認めないこの映画を一目するだけで、イーストウッドの関心の第一が「ブルーズ」ではなく「ピアノ」にあることは明々白々だろう。
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イーストウッドがロックに代表される一九五〇年代後半以降の新興音楽にほとんど嘱目しないらしいのも、当該ジャンルにおけるピアノの相対的な地位低下(鍵盤楽器が編成されない。あるいは電子キーボードが重用される)に由来するのかもしれない。とするならば、彼がジェリー・リー・ルイスリトル・リチャードをどのように聴いたのかについては、いささか興味を誘われるところではある。

ダーティファイター』の対ウータンなど、これまでごくわずかの例外的作品/シーンに限られていた被写体イーストウッドの柔和な表情が惜しげなく撮られているのが何とも縁起よく、(アーカイヴ・フッテージを除く)出演者の高齢化の度合いが『スペース カウボーイ』を抑えてイーストウッドのフィルモグラフィで一等賞に輝くことも特記しておきたい(最年少と思しきマーシャ・ボールでさえ一九四九年生)。

そしてもうひとつ、このドキュメンタリを見て思い知ったのは、歴史に対するイーストウッドの態度が「映画」においても「音楽」においても共通するということだ。すなわち、どのような映画も音楽も、他に影響を受け、他に影響を与え、縦に横に連なり合って存在する。イーストウッドにおいてその歴史認識は「自分も歴史の一部である」という自負、また同時に「歴史の一部でしかない」という謙虚さとして出演・演出作に顕れているはずだ。

 ところで、ここでドクター・ジョンらのシーンの舞台となる「イーストウッド・スコアリング・ステージ」の名はワーナー映画のクレジットにしばしば認められ、かねてより「これはクリント氏に因むものかしら? はたまた偶然の符合?」と気になっていましたのでこのたび確かめてみたところ、創設は一九二九年にまで遡りますが、一九九九年の大規模改修に伴い、これに尽力したクリント氏の姓を冠することになったそうです。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ゑぎ jollyjoker ナム太郎[*]

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