[コメント] 受取人不明(2001/韓国)
映画を見終った人むけのレビューです。
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この映画はあまりに刺々しく哀しい。それぞれの描写がコミカルに味付けされていることこそが滑稽を通り越して哀切さを掻き立てる。
犬殺しの親方を犬のように縊り殺し、バイクで逃走中畑に逆さに突っ込んで(コントのように!)絶命してしまう混血少年。直してもらった右目を代償に貞操を捧げた米軍兵に、記念に体に刺青を彫られそうになり自ら再び右目を傷つける少女。愛した少女のために米兵を撃って自首し、牢獄に閉じ込められていたいつも彼からカツアゲしていた不良少年を、娑婆から隠し持ってきた針金で絞め殺そうとした少年。
彼らは復讐を果たして満足を得たかったはずが、より格好悪い未来しか迎えられなかった。それは復讐すべき相手を間違えていたから、ではない筈なのだが…。それに比して大人たちの決着は単純だ。混血児の母は米兵に汚された体ごと棲家にしていたバスに火をつけて焼死した。戦争で敵兵3人を殺し、勲章を得たことを誇った少年の父は、少年をかばって米兵を撃った罪を被ろうとして少年に押しとどめられ、儒教的には「孝行息子」である息子に罪を「奪われる」。ひとつ言えることがあるとすれば、大人たちはもう戦争から逃れられないのだ。少年たちより前、民族が日本軍から奪還された喜ばしい日を見ているにも関わらず、だ。彼らにできる復讐は自滅しかない。
勝利者は誰もいない。人々はみな地に這い蹲り、鉄臭い血の味を味わわされる。あれから母国は立派に復興したが、戦争はいまだ終わってはいない。米軍に踏みつけられる痛みを、少年たちは痛みとすら認識できないのだ。
こんな重いドラマを若きキム・ギドクは描き得る。そのことだけは日本人の真似できない重い事実だ。
見ろ、また飛行機がゆく。
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