[コメント] ミリオンダラー・ベイビー(2004/米)
驚くべきことに、日本映画の表彰で最も歴史があるキネマ旬報社のベストテンでクリント・イーストウッド監督はこれで4度目の第1位を獲得しました!これは日本映画で今村昌平や今井正さん達が獲得する同じ回数とは比較にならない快挙です。
外国映画部門とはアメリカ映画だけではありません。言うまでもなく欧州や中国、最近では韓国映画のレベルアップで、ソフトの多様化が進み、同一監督が4回、しかも2年連続でこうした賞を獲得することは皆無に等しい快挙であり、賞賛されるべき事実です。
とにかく老練な技術力を獲得したイーストウッド監督は、自ら演ずる時もあれば、監督に専念する場合もあり。そして彼自身の人脈と眼力で共演者も個性的で魅力ある俳優が多々出演する。
『マディソン郡の橋』のメリル・ストリープ。彼女の少しおどおどした演技は絶品であるが、中年女性の絶え間ない心の動きを見事に表現できていた。
『許されざる者』のジーン・ハックマン。彼はかつて『フレンチ・コネクション』のポパイ刑事である。イーストウッドも『ダーティー・ハリー』で一世を風靡したが、この映画のポパイとハリーの対決は見るものをうならせた。
『スペース・カーボーイ』のトミー・リー・ジョーンズも見事だ。彼がこの映画の最後に主役としての存在価値を残したことに意味がある。ハリソン・フォードと競演した『逃亡者』が印象的だった。
『ミスティック・リバー』の幼馴染三人。とくにショーン・ペンは素晴らしかった。最近やっとアカデミー賞を受賞したが、彼の演技の飛躍ぶりには、この映画も大いに貢献している。
そして今年である。
ヒラリー・スワンクとモーガン・フリーマンを擁し、これまでのスポーツものとは全く異なった現実直視を行った。素晴らしかった。
この映画は大きく2つに分かれている。(言うまでもないが・・・)
ひとつは中年女性がボクシングチャンピオンになるまでの過程。
もうひとつは、尊厳死の問題である。
この中間に、老トレーナーの娘との確執と、女ボクサーの貧しい貧しい生い立ちは横たわっている。そしてこの位置関係が一致しているのだ。
娘を失った親と親を失った娘の物語が、前述の二つの物語の間に重たく横たわっている点がイーストウッド流なのである。
彼の作品には常に言葉にしないものがある。『マディソン郡の橋』における”不倫”というもの。『ミスティック・リバー』にある”憎しみ”というもの。いずれも画面いっぱいに観客はこれらのわかりやすいテーマを見せつけられるのだが、一切言葉にされていない。
言葉や音楽や、華美な映像(例えばVSXとか)を用いてそれを表現せず、あえて映像のみでテーマをぶつけてくるのがイーストウッド流なのである。
だから彼の映画は常に静かだ。音楽も極力最小化されていてセリフもほとんど小さめだ。
今やハリウッド映画は”見せられないものはない”という状態になってしまった。
だからなおさらアメリカ映画でイーストウッドが表現しようとするものに魅力を感じてしまうのかもしれない。
それは古い映画のオマージュとかではなく、別の意味の新しさとして感じれらるからかもしれない。
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