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[コメント] 機動戦士Ζガンダム 星を継ぐ者(2005/日)

 いいところもあれば、いただけないところもあり、誰にでもお勧めとはいいがたいのですが……ですが、それでも楽しんだので力いっぱいレビュー書いてしまいました。長文すいません。
桂木京介

 この映画は賛否両論(悪評優勢)の感がありますね。僕もCinemaScapeに来る前に色々なサイトのレビューを読みました。でも、あきらかに「悪く書いてやろう」という意図のもと観にいったようなレビュー、逆に「ガンダムならなんでも賞賛」という全肯定的なレビューをのけてみると、ほとんどの人がおなじことを書いているように思いました。(あくまで各地サイトのレビューです。CinemaScapeは色々なレビューがあります)

 すなわち、「テレビシリーズを観ていないとキビしい」ということです。

 本作はご存知のように、「機動戦士ガンダム」の続編「機動戦士Ζガンダム」のテレビシリーズを三分割して再編集し追加シーンを加えたダイジェスト的作品です。

 「Ζ」は前作「ガンダム」にくらべると、ずっと複雑なストーリーです。地球連邦軍vsジオン公国軍という、わかりやすい対立構図だった前作にくらべ、「Ζ」は、そもそもが地球連邦軍の内部抗争に端を発しているという時点でもうかなりややこしい(だから敵味方どちらの陣営にも同じモビルスーツがいたりします)。それを理解して、エゥーゴ(味方)vsティターンズ(敵)という構図で話についていこうとしても、話が進むにつれ、ジオン残党の第三勢力、エゥーゴに協力する別組織、さらには地球連邦軍内のエゥーゴ派・ティターンズ派など、あれやこれやがでてきてもう大変であります。

 この勢力乱立の妙が「Ζ」というストーリーの面白さでもあるのですが、これを短い時間で表現しようとすると、どうしても説明不足になってしまうのは仕方のないところ。そもそも、「ガンダム」の映画三部作はそれぞれ2時間超の上映時間があったのに、「Ζ」は95分しかありません。はっきりいって時間が足りないのです。

 だから話はすさまじい速度で進行します。複数のエピソードがひとつにまとめられているのはまだいいとして、原因が説明されずいきなり結果だけが登場する場面(もちろんテレビ版では原因も結果もきちんと描かれている)がやたらあるのも、「Ζ」初体験のひとには相当苦しいでしょう。

 ただ、制作側もそれはわかっているようで、何カ所か欠落した説明をおぎなう「つなぎ」となるカットがあらたに撮りおろしで含まれているのは好印象です。とくに、テレビ版「Ζ」ではただ顔を見せにきただけといった感じのカイ・シデン(ご存知ガンキャノンのあの人ですね)が、みじかいながらも物語の核心にせまる「つなぎ」シーンを演じているのは嬉しい。

 また、特急進行のせいか、それともそういう意図なのか、「元祖キレる17歳」ことカミーユ・ビダン(主人公)のキャラクターが、かなり改善されているのはありがたい。テレビ版のカミーユは、それはもうヒドかった。ヒステリックで暴力的、深刻なまでに神経質という危ないキャラクターだったのです。すぐ八つ当たりするしねえ。そんな彼も物語中盤、フォウ・ムラサメと出会ってからは丸くなってゆくのですが、序盤はほんとイヤなやつでしたよ。

 そのあたりが映画版ではうすめられ、ちょっとナイーブな少年程度におさまって……いや、そこまではいってないか。生身の人間をガンダムで追いかけ回してバカ笑いするものね、あいかわらず。

 キャラクターの変化といえば、初代「ガンダム」の主人公アムロ・レイも映画版では大きくあつかわれており、ポスターを見る限りではカミーユ、シャア(クワトロ)にならぶ第三の主人公という立場のようです。

 テレビ版「Ζ」のアムロは出番がすくないわりにダメダメ期間がひたすら長く、物語後半にいたるまでほとんど生ける屍のごときで、当時はこれにガッカリさせられたものです。しかしこの映画においては、アムロの存在は大きいもののその凋落っぷりはあまり描かれません。まあそういう部分を描いている時間がないだけかもしれませんが。また、テレビ版「Ζ」でのアムロの数少ない活躍シーンが大きくフューチャーされており、アムロ君といわれる(誰に?)僕としてはうれしいところです。

 10月公開の第二部では、新登場のアムロの恋人、すなわち、自己チュー女ベルトーチカ・イルマ(たぶんΖガンダム史上1,2を争うくらい嫌われているキャラクター)が活躍するようなので、楽しみなようなそうでないような……。

 最後に絵の話をしますと、この映画、あらたに書き直した部分はわずか三分の一だそうで、かなり多くの部分がテレビ版の絵をリファインしたものでまかなわれています。

 新作部分の絵はたしかにいい。なんでこれで全編つくってくれなかったんだといいたくなる高いクオリティです。

 なかでも、従来部分とくらべて圧倒的にことなるのはモビルスーツの重量感です。かんたんにいうと巨大ロボットが「重そう」なのです。ズズン、としているのです。「こんなものに頭上でドンパチやられちゃたまらんわ」という説得力があります。それだけに、テレビ版の絵のモビルスーツはペラっとして見えてしまい、なんだか哀しくなります。

 なんといってもテレビ版は二十年も前のものです。いくら加工しようが従来画像と新作画像の落差は大きい。映画版はかなりヒットしているようで、グッズ収益も爆発的とのこと、もうかってるんだから第二部以降は、もっと新作カットをふやしてくれませんかねえ。

  というわけで、テレビ版「Ζ」を全部見た僕でも不満がないわけではなく、ストーリー展開が早すぎるので観ていない人には薦めらないという、なんだか困った映画ではありますが、それでも僕は楽しんだ。大きな声ではいえませんが、『ハウルの動く城』よかずっと楽しかった。だからまあいいかと、思っているのであります。

(評価:★4)

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