コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 七人の侍(1954/日)

用心棒』に続いて観た自身二本目の黒澤映画。『用心棒』が面白かったし、「日本映画史上最高傑作」って言われてるからある程度面白いとは思っていたが、五十年以上前の映画にここまで圧倒されるとは思ってなかった。
JKF

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







久しぶりに心から魅了されて画面に釘付けになってしまうような映画を観た。アメリカ映画やイギリス映画を観ていて「英語圏の国に生まれたかったなぁ」と思ったことは何度もあるが、日本の映画を観て「日本人に生まれて良かった」と思える映画は今まで無かった。本当に凄い。

まず何が凄いって七人それぞれの魅力。普通の映画って仲間が集まるまでのプロセスより、仲間が全員揃ってから始まる物語の方が高揚感が伴うモノだと思う。だがこれは違う。七人全員が揃う前から既にワクワクしてしまう。七人集まるまでにかなりの時間が費やされるって聞いていたから結構ダレるだろうと思っていたが、顔を全く知らない俳優たちなのにあっさり顔と役名が一致するようにキャラクターが作られていて、本当に見事。

そしてこの映画に対する俺の評価を決定的なものにしたのは、菊千代が農民出身だと分かる場面。武士を志す者は皆強くなり、天下無双になって戦で活躍し、将軍に認めてもらえる侍となることを夢見る者たちである。映画の中の勝四郎もその一人だし、七人の他の人たちもまた、かつてはそんな夢を見ながら夢敗れ、浪人となったのだろう。そんな彼らの成れの果てというべき落武者を、土地や作物を奪われた憎しみをこめて竹槍を突き、鎌や鉈をふるって殺して武器を手に入れていた農民。にも関わらずいざとなれば「おさむれぇさま〜」と言い寄る農民を卑怯だと言い放ち、そして農民をそんな人間達にしてしまった侍も「悪いんだ」と吐き捨てる菊千代。後々の戦の場面で幼い頃に家族を失ったと分かると、このシーンが余計に心に響いてくる。

最近、自分が映画を観ていて高得点をつける傾向を分析していて分かったのだが、長くてスケールのデカイ映画に大好きな作品が多いことである。それらは『ゴッドファーザー』、『ロード・オブ・ザ・リング』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、『アラビアのロレンス』、『ダンス・ウィズ・ウルブス』(四時間版ね。三時間版は知らん)、『ブレイブハート』と国外の名作と謳われる作品が名を連ねるようなジャンルで、やたらと男の浪漫が漂う部分がある。「なぜそれらが好きなのか?」と問われた時、今の自分は答えを一つに定めることが出来ない。それは魅力ある登場人物と多くの時間行動を共に出来ることであり、その映画の世界が「一度行ってみたい」と思えるようなスケールの大きくて美しい場所だからであり、長い時間をかけてドラマをじっくり描かれたからこそ生まれるクライマックスのエモーションが大きいから、などである。まあ結局の所、そんな映画にしかできない要因が重なって誕生する映画を観て圧倒されたときに感じる「俺は今、面白い映画を観ている」という喜びと感動を味わうことの快感がそういう類の映画が好きな最大の理由であり、そして幼い頃から映画好きである理由の一つだと思う。

俺が今まで観てきた邦画(といっても100本程度かと。数えてないけど)は面白い、素晴らしいと思うことがあっても、それがなかったように思える。そういう意味では『七人の侍』は初めて観た邦画だった。撮影と重低音が迫力ある野武士との合戦(今の日本で撮れと言っても無理)、農民と侍の関係の丁寧な描写、キャラクター一人一人を魅力的に描くこと、古き日本を再現した金のかかったセット。まさに映画にしかできない、映画だからこそできることだ。何十本かに一本の割合でたまに経験する、こういう映画に出逢える歓び。これがあるからこそ映画はやめられない。

とりあえず日本のダメ映画製作者たちはもう一度この映画を見直して、真の娯楽映画がどういうものかをもう一度再考すべき。CG使って映画作ってもいいから、まず方向性を改めないと、海外に対しては過去の遺産によって生まれた武士道ジャンルと得体の知れないホラージャンルに縛られるだけで韓国に抜かれる一方です。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)sawa:38[*] すやすや[*] マス[*] 荒馬大介[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。