[コメント] SAYURI(2005/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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細かなディテールはさておき、日本文化を真摯に扱ったハリウッド映画である。だが、それに加えて映画の醍醐味を感じさせてほしかった。とりあえずストーリーを追うことや日本文化、芸者の説明に気をとられ過ぎてしまったのではないか。美しさに惹かれたり、さゆりに感情移入したり、といったドキドキは味わえなかった。
『シカゴ』で華麗な舞台シーンを作ったロブ・マーシャルだけに、芸者の舞台シーンには期待していたが、もう一歩足りない。美しさ、華麗さ、どれを見てもやや肩透かしを食らった。長い時代のスパンを描くストーリーも、さゆりと会長のラブストーリーであったにしろ、さゆりという女性の人生記だったにしろ、豪華キャストによる群像劇だったにしろ、絞りきれていない。面は広いが描き込みが甘い絵画のよう。
結末が象徴するようなラブストーリーであるならば、会長の視点や描写をもっと行うべきだった。さゆりの一人称に合わせすぎたのが、そうすると失敗。さゆりの人生記だったならば、もっともっと波乱万丈な色合いを濃くしなければ魅力は薄い。豪華キャストの群像劇ならば、それぞれの描写にさらに深みを持たせる必要があった。 歴史的背景との接合を強め、リアリティを強調する手もあったはずだが、戦中や敗戦にしても設定的な意味合い以上には感じられなかった。こういう浅く広くの絵巻物的な映画は緩急がないのが欠点だと思う。
ストーリーに引き込まれなかった理由はもうひとつ、チャン・ツィイーの存在感の薄さもあった。彼女のことは好きだが、今回はひとりで映画を背負って立つほどの大役。それには荷が重かったと感じざるを得なかった。主演が映画を引っ張ってくれないと、こういった映画は厳しい。
その点コン・リーの存在感は強烈だった。僕のコン・リーに対するイメージは初期のチャン・イーモウ作品で演じていたような献身的な妻であったり母であったり、という印象だが、この映画の中では嫌な女がすごく板につき、悪女ばかり演じてきたように錯覚すらしてしまった。正直、彼女の出番がなくなった終盤からは映画への興味まで薄れてしまった…。
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