[コメント] ある子供(2005/ベルギー=仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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「生まれて10日で子供を売り払う」という設定を聞いたとき、ダルデンヌ兄弟にしては随分と現実とかけ離れた設定だと感じた。しかし、観てみるとやはりダルデンヌ兄弟。徹底したリアリズム。それが生む緊迫感。下手なサスペンス映画を観るよりも、ダルデンヌ兄弟が描く人間模様の方がスリリングだ。
主人公は彼女のことを愛していたのは前半の描写からもきちんと伝わっていた。しかし、その愛を表現することができず、自分勝手な行動ばかりをとってしまったばかりに、すべては悪い方向に転がってしまった。そんな中、少しずつ成長した結果、今までなら逃げていたであろうところを、自ら罪を告白することで服役することを選んだ…。
そういったリアルな描写が終結するのがラストシーン。『ロゼッタ』にしても『息子のまなざし』にしても、ラストシーンでのほんの些細な変化を描くのが効果的だったが、本作でもそれは顕在だった。
主人公はラストシーンで初めて弱さを見せる。今までは何があっても勝手に強がっていたのであろう。自らの情けなさ、彼女への愛など、こみ上げてくる思いを堪え切れなかったゆえに流れた涙。一緒に泣いてくれた彼女の存在が実に暖かい。人間は決して強くない、一人では生きられないということを痛切に感じさせてくれるシーンである。それと同時に、二人ならばこれから先、なんとか苦境も乗り越えて行けるという希望も感じさせてくれる。
ただ「泣く」というだけなのに、いろいろな感情が詰まっている。唐突に泣き出すあのタイミングが絶妙だこと…。無音のエンドクレジットの最中、ジワジワとこみ上げてくるものがある。
リアリズムを追求した映画としてほぼ完璧といえるほど隙のない映画だが、2度目のパルムドールを手にするほどの映画であったかというと疑問符も残る。ラストシーンも、意味合いは違うとはいえ「泣く」というキーワードで考えると、『ロゼッタ』と同じである。『ロゼッタ』以上か、と問われると素直にイエスとは言えないのが残念でもある。
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