[コメント] どん底(1957/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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優れた映画のフィルムのどのコマを見ても絵画で食っていける、が信条の黒澤明は、執念の男を日本映画界で立ち回ったのだが、この映画、その思想をストーリー展開と登場人物のレベルにまで及ぼそうと実験しているかのようだった。言うなれば、優れた映画に出てくる登場人物それぞれが主役で食っていける、だろうか。それは日常生活で繰り広げられる、人々の市井の息吹がいかに素晴らしいかを説いているかのようだ。見ていて、人間を憎み好んだ黒澤イズムが五臓六腑に染み渡る心地を感じた。
また、関東大震災の惨劇を網膜にとどめ、黒澤に大きな影響を与えた兄の自殺が、武士の家で生きる黒澤明に及ぼした影響はこの作品で開花したように思う。彼の兄の自殺が整理できないままに生きていくことに不安を抱き、後年自身も自殺未遂するあたり、この作品は黒澤明の内情暴露をになっていると思う。黒澤明映画の残した暗号を解読する上で貴重な映画となり、私たちの網膜と脳に焦げ付いたままになるのかもしれない作品だと感じざるを得ない。
それと、軽妙な歌声が鼓膜に焼き付いたまま死ぬことを良しとしよう。トントンチキチントンチキチン〜♪
[まとめ]
人はそれぞれに各自自分の歴史をもち、必死に生きている。が、それは自分という役柄を演じていることなのかも知れない。そんな風に、この映画から映画の本質である人間を再認識した“気がする”。“気がする”とし、まだ断言できないのは自分が若いからだろう。黒澤明の映画は年と共に変化する予感を漂わすスペシャリストだから。
2002/12/18
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