[コメント] 隠し砦の三悪人(1958/日)
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本作で重要なのは、女衒(上田吉二郎が相変わらず最高)から救われて上原美佐への忠義に至る樋口年子だろう。身を挺して銃撃から上原を救い、怪我を上原に治療して貰って「もったいねえ」と漏らす彼女の辛気臭さ。
藤原釜足(53なのにいい体格している)、千秋実(41)の中世農民コンビは、この忠義噺に喜劇的に参加する訳だが、上原のお家再興に利用されて端金で追い払われたのに、金の延べ棒を相手に押しつけ合うというこれまた辛気臭い善良さに至る。まるで上原が道徳の神様のようなのだ。馬鹿にされたような感想が残る。何が痛快活劇なのか、さっぱり意味が判らない。
逆さ八の字眉毛で緊張型の上原美佐の造形は、講談活劇独特のキャラだと思わねば得心の行かない奇怪さがある。もしかしてフェミニズムの女性像を先取りしていたのかも知れない、とは思うが。モスラ系の火祭り(あれは史実通りの描写なのだろうか)を楽しかったのうと回顧して朗々と唄を歌う辺りの凄すぎるアナクロ感は、クロサワ世代独特のお愉しみで尻の穴が縮む思いがする。このモスラもまた江戸時代に失われた中世の猥雑世界と見れば興味深くないこともないが、忠義に回収されるのであればどの体制だって辛気臭いだけである。
私的ベストショットは藤原・千秋の瓦礫の山の登攀(これも穴掘りも忠義のための三船敏郎のイジメとしか思われないが)。三船の馬上の殺陣も素晴らしいのだが、続く藤田進との槍の対決はまるで撮れていない。藤田進は(『姿三四郎』はじめ)戦中戦うニッポンのアイコンであった訳だが、三船にとどめを刺されず味方から嘲笑され、三船方へ寝返る本作の彼は、戦後冷飯を喰わされた挙句にアメリカ賛美に喜劇的に寝返る本邦戦犯たちの戯画に見える。『用心棒』でも藤田進は用心棒の職を投げ捨て狡賢く逃げていった。クロサワの彼の扱いは意図的と思えるのだが、どうなんだろう。
異常アナクロ作『虎の尾を踏む男達』自己反復な国境越えの作劇だが、最初の関所の誤魔化しは下手糞だし、馬を売る件も三船がなぜ応じるのか意味不明。だいたい、あれほどの金を(柴に仕組まれたときも外された後も)背負うのは無理だろう。どうでもいいけど。なお、タイトルの「悪人」は中世では「悪党」同様、朝廷への反逆者、転じて武士一般の意。当然、農民からの参入者も含まれる。
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