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[コメント] ミュンヘン(2005/米)

政治的問題が聖域であるべきはずのオリンピックを舞台に悲劇を巻き起こすのが、やりきれない哀しみを生む。この実在の事件が、この映画のすべての始まり。観る者は、動揺する暇も無いままに70年代の緊張感伴う作品の世界へと、気が付けば入り込んでいるはず。
TOBBY

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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個人的にはオリンピック惨劇の事件が、メインであり、そこへ到る経緯のストーリーだと思い込んでいたので、そこから始まるモサドの"報復"のストーリーだと知って、ちょっと驚いた。故に勝手に想像していた思想や政治が複雑に絡まりあう難解なストーリーというよりは、緊張感伴うアクションスリラー作品のようなニュアンスを感じた。カミンスキーの詩的で陰影を感じさせるソリッドな映像は健在だけれど、舞台である70年代を意識したクリア過ぎないフィルムの感じなど雰囲気を盛り上げる。大好きな「ジャッカルの日」や「オデッサファイル」、「マラソンマン」などに共通な70’sのニヒルなトーンが好印象。アートワークも隅々まで手を抜いておらず通行人や脇役に至るまでのコスチュームはもちろん、小道具まで70's仕様なのが観ていて感動。欧州に散ったテロリストを追うバナたちは各国に移動するが、その土地土地で雰囲気も時代の空気も説明は無くとも映像や軽い演出でギュッと詰め込み感じさせるのには恐れ入る。演技に関しては暗殺者もテロ関係者たちも役者のカラーが出過ぎず、匿名性を感じさせつつも適度な存在感も示し、皆、好演。特にモサド上官を演じた出てくる度に作品の空気を冷たく変えるラッシュの演技は圧倒的。情報屋ルイ(アマルリック)の非情さと苛立の混じる存在感もリアルで良い。全体を通し、やや散漫な印象や、暗殺シーンばかり強烈な印象も残しがちではあるが、作品全体の硬質な世界観と、風化さてはならない一つの現実としての作品の存在意義は十二分に感じられ高く評価したいと思う。バナのベッドシーンと暗殺シーンの悲劇の交差の演出は安易すぎて、あそこだけ演出が浮いていた気がする。最初の暗殺シーンでエレベーターのワイヤーがテロ関係者の首に重なり絞首刑のように見えるが、それが暗に報復の正当性を案じさせていて巧いなぁと唸った。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ハム[*] けにろん[*] Keita[*]

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