[コメント] 東京の合唱(1931/日)
喜劇作家小津の本領発揮。小津のサイレント作品ではいちばん好きかもしれない。
もちろん『生れてはみたけれど』や『浮草物語』などをさしおいてサイレント期の最高作と云うつもりはないけれど、それでも大好きだ。幼い娘高峰秀子の病気は回復したけれど治療費のために箪笥の中はからっぽ、それでも「その代り美代子は元気になれたんだ」と明るい表情を作って家族四人で遊ぶ場面の悲痛な美しさ。坂本武に対しての岡田時彦の台詞「熊が逃げ出したって僕等の人生には何の関わりもないじゃありませんか」もすごい。そしてサイレントであるにもかかわらずラストは合唱で締めくくられる。うーん、大胆!
「失職/求職」は国や時代を問わずあらゆる(資本主義)社会に必然的に内在する普遍的問題であり、同時に格好の映画的題材でもある。それはたとえば、おそらく本作を下敷きにしたと思われるアキ・カウリスマキの『浮き雲』を見ても明らかだ。
私たちが生きるこの世界はずっと昔から何も変わっちゃいない。相変わらず最低である。でも、そんな世界をもう一度信じてみようという気持ちにさせてくれるものが、この『東京の合唱』の合唱と『浮き雲』のラストカットの夫婦のまなざしにはある。
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